≪四節;囮の担(にな)い手≫
〔ところが・・・実はこの時、大勢(たいせい)はすでに動いていたのです。
そのきっかけは―――「雪月花」の三将の一人である、「雪」の宿将イセリアが・・・元帥・大将軍が控える本陣の天幕に、
ある情報を持ってきたところから始まるのでした。〕
婀:なんですと―――・・・それは真実(まこと)なのか!?
イ:はい―――なんでも彼らは、所属している魔将ビューネイから・・・「自らが降れば、パライソも無碍な扱いはしないだろう・・・」と―――
婀:どう云うつもりなのじゃ―――まるで解(げ)せぬ!
この期に及んで、敵であるカルマの兵を助けよなどと・・・!
タ:イセリア殿―――それを確かめるのには・・・
イ:残念ながら、その手立てはございません―――
もしこれが、我々を釣る策であり、この情報を鵜呑みにしたばかりに、城内に殺到すれば・・・
タ:ふぅむ・・・立ち所に包囲され、殲滅―――折角の優位も台無しとなりましょうな。
〔なんと・・・最終戦を目前にしながらも、敵方のあまりにも不可解な行動―――
最強を誇る無傷の三万の兵が・・・突然の投降。
しかしこの事態を、パライソ軍首脳は楽観視せず、敵方の巧みな策略ではないかと疑い、そこで大いなる議論となるのですが―――
ここで・・・パライソ軍もう一つの知嚢と呼ばれた人物が参加するに至り―――〕
カ:一つ・・・考えがあるのだが、よろしいかな。
タ:カイン殿―――
カ:いや、済まない。
少し明日のためにタケル殿と話し込みたくてね。
するとどうだろう・・・イセリア殿が恰好の酒の肴を持ってきて下された・・・。
イ:私は―――そんなつもりは・・・
カ:冗談ですよ、真(ま)に受けてくれては困る。
だが・・・敵の策が真実だとして、いい案が私の中に浮かんだものでね。
〔実は彼は、本当にこの時、タケルと夜を明かしての戦略討論をするつもりでいました。
その矢先に―――本陣天幕外にて、イセリアからの情報を耳にし、結果として盗み聞きしてしまった事をまづ詫び、
その代わりとして策の一つを提供して見せたのです。〕
カ:向こうさんがこちらを嵌めようと云うのなら、こちらも嵌められた振りをして、敵の懐に乗り込む―――と、云うのは・・・?
イ:そんな―――そんなことは危険すぎます! 第一、向こうの策が本当なのだとした場合・・・
カ:イセリア殿―――なにも犠牲になるのは、兵たちばかりとは限らんよ・・・。
婀:カイン殿―――するとそなたは・・・
カ:いかにも、今回犠牲になるのは、北部総督府の私達で十分だ。
それに・・・元々の私達は、カルマへと降った日より―――おたくらへ甚大とも云える損害を出してきたんだ・・・
それを―――お人好しの女皇陛下からのお救いの辞(ことば)で、この生命を永らえてきた・・・
もうそろそろ―――罰の一つでも中(あた)ってもいいんじゃないか・・・そう思ってね。
〔一度はカルマへと奔りながらも、ある機会をしてパライソの諸侯・諸将の列に加えられた・・・
その事を、古参の将官達は、あまり良くは思ってもいませんでしたが、如何せん女皇からの勅命の手前もあり、表立っての言動は慎まれたのです。
しかし―――陰では、自分達は何を云われているか判っていた・・・
とは云え、今日の今まで生き永らえる事が出来たお礼を、いつか返そうと思っていた処へ、いい機会に巡り合わせたと感じたカインは―――
一挙両得と思えている策を献じてみたのです。〕