<第百四十七章;道を阻む者>
≪一節;黒焔≫
〔その当時―――経験も浅かったのに、カルマ領内に深く侵入し過ぎたため、瞬くの間にカルマ軍に包囲され、
自分の主君であった皇・女禍から頂いた自分だけの兵を殆(ほとん)ど失い、虜囚になり果ててしまったヱリヤと残りの部下たち・・・
そんな彼女達を待ち受けていたのは、すぐにでも想像がつくものでした。
男ならばまだしも・・・女の敗残将兵の辿る運命―――
自分の軆(からだ)を弄(まさぐ)りつくされた後、生命を失うだけのヱリヤの内には・・・
最早「絶望」の一文字しか有りませんでした。
けれど・・・逆にそのことが契機に―――母が生きていた頃にさえ教わらなかった事を、偶然にもヱリヤは発現させてしまったのです。
それこそが「黒焔」―――
自分の周囲に蠢く物体総てを・・・
その「黒焔」は捉え――― その「黒焔」は貪り――― その「黒焔」は蝕む―――
そんなヱリヤの窮地を知り、親友を救わんと急遽援軍として駆け付けたエルムが見たモノとは、
たった一人・・・呆然と立ちつくす戦友の姿―――・・・
しかも、未だヱリヤの興奮・衝動冷め遣らぬ時でもあった為、その「黒焔」は無二の親友にも及ぶところだったのです。
しかし―――今までの消耗が激しかった為か、寸での処で気を失い、その場に倒れこんでしまったのです。
そして・・・ヘライトスとソシアルが開く野戦病院にて快復に努め、頃合いを見計らった処で今回の状況を質(ただ)そうとしたところ・・・
あまりものショックのために、ヱリヤの記憶の所々が欠如してしまっていたのです。
後日、当時の丞相だったマエストロや、エルムの調査の甲斐があり、事の詳細が明らかとなったのですが・・・
その事実を知らされた時、ヱリヤは自分を呪いました・・・。
それと云うのも、敵であり、自分を捉えた上辱めたカルマ軍―――それは勿論のこと、
生き残っていた自分の部下たち・・・その彼らにも、差別なく平等に死を与えた―――
それからと云うものは、ヱリヤは「黒焔」の記憶に封印を施し、自分が持っているこの衝動に枷をしたのです。
そして今・・・「黒焔」の記憶は甦る―――
愛しき者さえも奪わんとする、「母」の姿をした、憎き敵を斃(たお)す為・・・〕
ヱ:喩えお前が・・・私のママーシャの姿をしていようとも、最早堪忍ならぬ・・・受けてみよ―――!
―〜メルトダウン・シンドローム〜―
―=ゲヘナ=―
ス:ほう・・・私が教えるまでも―――既に開眼はしていたか・・・
だが、まだ会得までは出来てはおるまい―――!
―〜ショックウェーブ・パルサー〜―
―=ヴィア=―
〔黒色の光を放つ龍皇の業と、黒色に燃え盛る焔帝の業・・・
両者一様にして引けを取らぬ大技ではありましたが―――・・・
無常ながらも、この世にある結末とは、たった一つだけ―――・・・
そして、互いの業を出し終え―――交錯した者達は・・・〕
ノ:ど―――どちらが勝ったのだ・・・
エ:(お前サマ〜〜・・・スターシア様―――・・・)