≪三節;亡キ者ノ影≫
〔しかしながら、そんな複雑な感情は、何もエルムだけに限った事ではなかったのです。
それと云うのも―――・・・
エルムに続き、同じく西廻りの回廊組からはノブシゲが・・・そして、東廻りの回廊組からはタケルが―――
果たして、この二人に共通している項目とは、なんなのでありましょうか・・・。〕
ノ:エルム様、助太刀―――・・・
エ:ノブシゲ殿かい、悪いけど今―――
ノ:莫迦な・・・やはり生きておいでになっていらっしゃったのですか―――式部様!
〔車騎将軍・エルムと対峙している敵将を見て、ノブシゲは愕然としました。
カルマ・コキュートス城・・・云わば、敵の本拠に乗り込んでいるわけだから、並大抵の将がここを護っていないだろうと予測はしていた―――
だからノブシゲは、エルムに助太刀をしようとしたのですが・・・相手の顔―――姿を見て、そんな気持ちは萎(しぼ)んでしまったのです。
そして―――僅か数画遅れでこの部屋に入ってきた、タケルもまた・・・〕
エ:ノブシゲ殿?どうしたって云うんだい・・・
ノ:・・・・・・・・・。
タ:―――ここか、次なる将が待ち受け・・・
婀:(?)いかがなされましたか、あなた―――
エ:あっ、タケル殿に婀娜那ちゃん、丁度いい処へ・・・実はノブ―――
タ:ジィルガ―――義姉(ねえ)ちゃん・・・
〔ノブシゲは、その人物の事を「式部様」としか云わなかったので、なぜショックを受けているのかエルムには判りませんでした。
そしてそれは、タケルの伴侶である婀娜那も同じだったのです。
この部屋に入るなり、次に自分達が相手をしなければならない敵将の姿を一瞥(いちべつ)しただけだと云うのに・・・
立ち止まり、少々驚いたかのような表情になる、自分の夫―――・・・
けれど・・・タケルとノブシゲの二人が、唯一共通していたこととは―――二人とも、ラージャの民・・・
そして、思わずもタケルの口から洩れた、ある名前・・・
ヱリヤ・エルムの二人が知る「マエストロ」―――ジィルガ=エスペラント=デルフィーネ
タケル・ノブシゲの二人が知る―――ジィルガ=式部=シノーラ
偶然の一致か・・・果てまたは神の悪戯か―――
そこには、時代は違えども、奇しくも同じ名前を持つ人物がいたのです。〕