<第十五章;嵐の前日>
≪一節;異例の厚遇≫
〔自分のお目付け役と、供をする者の二名を欠いた後、アヱカは宮城に行く事はせず、静かに二人の帰りを待ちわびていたのです。
そして―――二日余り経った日の事、誰かがアヱカたちが泊まっている宿の部屋に訪れたようです。〕
―――コン・コン―――
ア:はい―――(はっ!) もしかして、キリエさんか紫苑さんのどちらかでしょうか?
少々お待ちになって下さいまし・・・
―――カ・チャ―――
ア:はい、お待ち申し上げており・・・(あっ・・)セキ様――――
セ:ほぅ・・・アヱカ様は、私が来るのを存じ上げておったのですかな?
ア:い・・・いえ、申し訳ございません、勘違いでございまして・・・(赤っ)
セ:そうですか・・・いや、あれ以来顔も見せていただかないので、イクの方もどうしたものか―――・・・
と、気にはしていたものですから。
そこで、至急私どもが、あなた様がお泊りしている宿を探させたのですよ。
ところで―――今はお一人なのですかな?
コ:違うもんっ―――
乃:あたちたちがいます―――
ア:あっ・・・そうでしたわね。
セ:(ほ・・・)これはこれは、可愛らしい・・・このお二人のお子は?
コ:コみゅです、アヱカ様をお守りする一人みゅ。
乃:おなちく―――乃亜いいまちゅ、おねぇちゃまといっちょなのみぅ―――
セ:はは――――そうかそうか、二人して小さな守護者(ガーディアン)という事だね?
なんともお心強いことだ。
コ:ホ・・・ホントなんでしょ? だから・・・からかわないで下さいっ・・・。(ぐしっ・・・・)
乃:ねぇちゃま・・・ないちゃだめ・・・・。(ぐし・・・)(←連られて)
セ:あっ―――あぁ・・・これは悪かったね・・・。
(いや、しかし・・・とはいっても、見た目だと“お守りされている側”にしか見えないのだがなぁ・・・)
ア:コみゅちゃん、乃亜ちゃん・・・・セキ様もあなた達の事、何もウソだと思っていないのだから・・・ね?
泣くのは止めて、いつものように笑って―――・・・
コ:う、うんっ―――
乃:わかりまちた―――
ア:そうそう、いい子ね―――(なでなで)
あの・・・ところでセキ様、ナゼにこのようなところに?
セ:はい――― 実はあれから、あなた様がサナトリウムに足を向かわせられたこと――――
そのことに、イクも、また閣下のほうもいたく関心を寄せておりまして・・・・
そこでいっそのこと、あなた様をフ国の家臣団の一人に迎えられてはどうか―――
と、私めが具申したのでございます。
ア:えっ―――? わ・・・わたくしが―――フ国の家臣に??! で、でも―――・・・
セ:ええ・・・分かっております。
この国の内部に出来ている潰瘍も・・・・そして、サナトリウムにて、奇しくもあなた様が味わわれた屈辱も―――・・・
ア:でしたら――――ナゼ・・・・
セ:無論、このようなことで、あの時の溜飲を下げてもらおう・・・などとは思ってはおりません。
いや――――それ以上に、アヱカ様に対しての風当たりも、強くなるであろう事は必定かと思われるのです。
ア:・・・・・・。
セ:そこで・・・・不肖の私からご提案申し上げるのは、何もいきなりフ国の臣になってもらうのではなく、
私の主でもある、イクの秘書官として、実績を上げてもらおう――――
と、こういうことなのでございますよ。
〔その“誰か”―――とは、フ国の忠臣の一人、セキだったのです。
そして、この忠臣が、アヱカの許(もと)を訪れたというのも、
ここ数日、宮城から足の遠のいているアヱカの安否と、一つの提案をアヱカに持ちかけてきたのです。
それでは、その提案とは・・・当時としても異例とも取れる、フ国家臣団への参入―――・・・
この、厚遇とも取れることに対し、アヱカは――――〕
ア:そのお気持ち・・・実に嬉しくはありますが――――今しばらく、考えさせていただけないでしょうか。
セ:ええ、よろしいですとも・・・。
もとより、すぐには返事はもらえないだろう―――と、イクの方もそう申しておりましたから。
では―――近日中に、改めてお伺いさせていただきます。
ア:はい――――どうもご足労をおかけして・・・・。
セ:いえいえ、かまいませんよ・・・・では―――