<三節;靜かなる憤り>

 

 

〔その一方で―――― 僅かながら、紫苑に遅れて宿を出たキリエは・・・・

 

その足を、なぜか北西に位置する『夜ノ街』に向かわせず、南方の――――南西に位置する『サ・ライ』方面に向かわせていたのです。

 

なぜならば・・・そこには、自分の直属の上司が逗留していたのだから・・・。

 

そして、ウェオブリの宿を出立して、六日余りが経った、ある日の昼下がり――――〕

 

 

誰:ヱリヤ様――――

ヱ:(ん?)あぁ・・・これは――――ネイさんではありませんか、どうしたのです?

 

ネ:(ネイ=サラスバティ=オズボーン;2076歳;?;この国の司祭の一人)

  はい――― あなた様の従者と名乗る方が、至急お取次ぎを・・・・と。

 

ヱ:私の―――ですか・・・分かりました、それではお目通し願いますわ。

 

 

〔それは、一人の少女―――― 見た目にも幼い、この人物に付き随う者が・・・?

でも、それは紛れもなく――――〕

 

 

ヱ:(ふぅ・・・)やはり、お前だったの―――キリエ。

キ:はい、お方様・・・・。

 

ヱ:それで―――・・・?

キ:はい――― 実は、相互のご理解を得られたとのご報告と―――・・・

 

ヱ:ふぅん――― あの方と、依り代の者が・・・と、いうことは、『皇城』にて―――と、いうことね。

  それで・・・それだけじゃあないのでしょう―――

 

キ:は・あ―――― 実は・・・このことは、ご報告するにも憚られる事なのですが―――

 

 

〔“老婆”の姿ではない、“若い女”の姿をしたキリエ―――― そう、見た目にも、ギャップのありすぎるこの二人こそ、

永い年月を隔てても、朽ちる事のない『主従』なのです。

 

そしてキリエは、まづ女禍様とアヱカの両名が、お互いの存在とその意義を確かめ合い、その相互の下に認め合った事を報告したのですが・・・・

あの事変――― アヱカの身に降りかかった嫌疑を報告するに及び―――その口は急に鈍ってしまったのです。

 

 

そして――――そのことを逐一キリエから聞いたこの少女は・・・・〕

 

 

ヱ:・・・・成る程――――そういうことが、その方の身に・・・・(ギリィ・・・)

キ:・・・はい―――

 

ヱ:だけど、あのお方は出ることはせずに、お前にもただひたすら耐えよ――――そう言われたのね?(ギュ―――グググ・・・・)

キ:は・ぃ・・・・。(ゾクッ!)

 

ヱ:(ふぅ・・・)ならば、仕方がないわね。

  お前は不本意ではあるかもしれないけれど・・・・あのお方の―――女禍様の言に従うしかないでしょう・・・。

 

 

〔その・・・少女の言葉は・・・・聴くだけならば、平静さを装ってはいたのですが・・・・

その容姿は、無理に我慢をしているものの、それであり・・・

堅く握られた掌には、その爪が深く喰い込み―――また、唇も、歯型が残ってしまうほどの喰いしばりよう・・・・だったのです。

 

そして―――キリエも、こうなる事が予測できただけに、畏れもし―――また、一つの提案を、試みてみたのです。〕

 

 

キ:あの―――洞主様、実は、私なりに考えてみたのですが――――

  これから夜ノ街に戻って、これから必要となるであろう物と・・・私のグノーシス『ブリーズ・ジェイル』を、習得しようかと思っているのです。

 

ヱ:(ナニ―――?)グノーシスを・・・? しかし、それを習得してしまっては、他の眼からは欺けられなくなるわよ?

キ:はい―――ですが、もうすでに女禍様よりは、ご承諾を頂いておりますので―――・・・

 

ヱ:なんと――――・・・(フフ――)お前も・・・中々機転が利く様になったわね。

  直属の上司である私に相談をせずに、直接女禍様に奏上申し上げるなんて―――――

 

キ:申し訳ありません―――― ですが、そう何度もこことアヱカ様との間を往来するよりかは・・・・と、思いまして。

 

ヱ:(フ―――・・・)まぁ、いいでしょう・・・今回の事は、特別に大目に見てあげましょう。

キ:は――― 有り難きは・・・。

  では、これからは――― 我等に楯突かんとする者の処理――――いかがいたしましょう。

 

ヱ:ふむ・・・仕方がないわね―――。

  ならば、あのお方に楯突かんとする、カ・ルマに組みする者に限り、そのことを許可しましよう――――

 

キ:御意――――

 

 

〔そこで取り決められた事――――それは、彼女・・・キリエを認識する物

〜アーティファクト〜

グノーシス『ブリーズ・ジェイル』

 

の習得と、女禍様並びにアヱカに害を及ばせる者・・・ここでは取り分けて、カ・ルマに組みする『人間』にのみ限り、その処断を許可したのです。

 

そう―――そのことは、僅かながらにも、人間に対し、『生命与奪の権限』を与えた事であり―――

これからの血塗られた道を、暗示していたものでもあるのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>>