≪二節;アヱカ、ガク州の地に降り立つ≫
〔そして、ガク州の州城に着くまでに、実はこんなことが―――・・・
それは・・・なんとアヱカが、その途上で、乗っている馬車を止めるように要求したのです。〕
ア:すまないが、馬車を止めてもらえないだろうか。
セ:はぁ?! いや・・・ですが、しかし―――州城にはまだもう少しありますが・・・
ア:頼む―――
セ:はぁ・・・。
これ――――御者。
御:へぃ――――
〔赴任先のガク州城までには、まだ数里もあるというのに・・・。
それを―――アヱカは、途中で下車して、何かをするつもりなのでしょうか。
でも、それは想像上に難(かた)くなく――――〕
ア:セキ殿―――あなたはこのまま、一足先に州城に向かわれて下さい。
セ:は―――?? でも・・・そうしますと、あなた様は・・・・
ア:私は――― このまま、徒歩(かち)で直接州城へと赴く。
セ:なんと―――??! 徒歩で!? それはまたどうしてで――――
ア:私は――― 自分の足で、この地を歩き・・・そして、自分の目で、この地の民達の暮らしがどうあるのか・・・
予(あらかじ)め知っておきたいんだ。
そして―――それこそが、州公としての最低限の務め・・・そうは思わないか?
〔これから、自分が治めなければならない、土地の実情を宜しく把握するため・・・・
それであるために、アヱカは、自分の足で歩いて廻り、それを確かめたい―――と、言ったのです。
それを聞いたセキは――――〕
セ:それでは――――不肖の私めも・・・
ア:いや―――それでは困る。
セ:はて―――それはまた、どうしてで・・・?
ア:私が、あなたに先に州城に行ってもらいたいのは、事務上の引継ぎの手続きを行ってもらいたいからだ。
この地にて―――見ず知らずの私が行うよりも、永らくフ国にあって、重きを成しているあなたが行われたほうが、説得力がありはしないか?
セ:はぁ―――それはまぁ、そうですなぁ・・・・
ア:では、そういうことで―――
セ:あぁ、それでしたらしばしお待ちください。
ア:(ぅん?!)何か―――?
セ:ならば、せめてこちらを身にお付けになってください。
ア:(これは―――)“州公”の『印綬』・・・これを?
セ:・・・はい、それを今、お付けにならなければ、あなた様の要求を受けるわけには参りません。
ア:―――・・・そうか、分かった。
(サ・・・シュ―――)これで、いいかな?
セ:はい、大変結構でございます。
それでは―――あなた様が到着するまでには、須らく手続きのほう、終わらせておきますので・・・
ア:うん、では―――宜しく頼む。
〔この時―――セキが言っていた事が、理に適っていたのであれば、アヱカが言っていた事も、理に適っていたのです。
でも、その前に、このガク州を治めるのが、一体誰であるのか―――を、予め示しておくため、
セキは、この時点から、アヱカに、州公の印綬を帯びておくよう、指示をしておいたのです。
そして―――馬車を降り、領内を見回りに歩き出した新州公を、見送る形となってしまったセキ・・・
すると、この馬車の御者から、今までのやり取りについてこんな事が・・・・〕
御:いやぁ―――この度のここの州公様は、なんとも立派なお考えをお持ちでねぇですか。
オラはジン州の出だけんども、あすこの州公様もよく出来たお方だ・・・と、そう思っていましたに、
この州公様は、それ以上に行動力がおありでねぇですか。
セ:ほぅ――― 一般のお主でもそう思うか。
御:だぁって―――そうでねぇですか・・・。
普通、州公様や太守様といやぁ、こんな馬車で領内を見回りするもんなんでしょう?
それを―――新しく、ガク州を治める方は、自分の足でそれをなさろうとしていなさるだ・・・・
それが、オラたち民にとっては、どんなにありがてぇこったか―――
セ:ふむふむ――――さもあらん、さもあらん・・・・
〔この―――馬車の御者の言うとおり、事実上地方を治める立場にある者が、その足で領内を見回る・・・と、いうことは、
事例としては非常に稀だったのです。
でも、それをあえてする、新ガク州公・アヱカに、悪い印象など芽生えようはずもなく、
評判は上々と言ったところのようです。〕