≪三節;新州公、土に親しむ≫
〔それでは、当のアヱカは・・・・と、いうと。
すでに耕作の終わっている土地の上に立ち、それからおもむろに、耕された土を手に取り―――〕
ア:(くん・・・すん―――)・・・・いい土―――。
芳りもよく、しっとりとしてて・・・・これなら、良い作物も沢山に取れるでしょうに・・・・
残念な事には―――
女:<うん・・・ここまで見てきただけで、その殆んどが遊ばされてるのは、非常に残念なことだ。>
ア:はい―――・・・。
女:<そうがっかりする事はないよ、お蔭で当面の目標が出来た事だし・・・・ね。>
ア:・・・・はい。
〔耕作された土地の一部を手にとり、その土地の確かさを知りうるアヱカ・・・。
この一見して、不思議に思える彼女の行動も、実はアヱカ自身が、以前より土に親しんできていた実績の顕れでもあったことなのです。
ただ―――アヱカも、女禍様も言っていたように、彼女達がここまでに来る間に目にしたものとは、
耕されながらも、そのあとに何の手入れもされていない、いわば“休耕地”が目立つばかり・・・
これでは折角のいい土地も、宝の持ち腐れなのでは――――と、半ば嘆いていたのです。
それから―――そうこうしているうちに、この土地を耕していた主(であろうか)が、休憩から戻って来てみると、
自分の土地には見知らぬ女性―――アヱカの姿が・・・・〕
農:おィ、ちょっと、あんた―――オラの畑の上で、何をしているだ。
ア:ああっ―――これは申し訳ありません・・・。
いえ、丁度この辺りを散策していた折に、『大変良い土地をお持ちだ・・・』と、そう思いまして―――
それで、ちょっとだけ確かめさせていただいたのです。
農:はぁ〜〜―――ん、(うん?)
いい―――着物を着ていなさるが・・・ひょっとするとここの役人なんだか?
ア:えっ―――? い・・・・いいえ、違います。
わたくしが、ここのお役人だ・・・・なんて、とてもそんな―――
農:そうかい―――だったのなら、そこ退いてくんろ。
ア:あ、はい―――申し訳ございません。
あの―――・・・つかぬ事を伺いますが、ここら一帯を耕されたのは、あなたお一人なのですか?!
農:ン〜〜―――?! ああ、そうだよ・・・。
それにさぁ、オラが兵役で取られてさえなけりゃ、ここもこんなに荒れずにすんだのによ――――
それを―――お上の方々は、なんも分かっちゃくんねェんだ。
ア:あ―――・・・。(ズキ)
農:しかも〜〜―――さ、兵役や土木作業のような、きつい賦役を課す上に、六割もの祖を税で持っていきやァがる・・・
オラたちに死ね―――ッてェのか?!!
女:<な・・・に―――?! 六割??そんなバカな!!>
ア:<ど、どうされたのです?女禍様。>
女:<アヱカは知らないのか? このフのガク州に関わらず、ガルバディア全土において、租税はその年に獲れた内の、全体の二割だということを!!>
ア:<まぁ・・・。>
女:<それに、残りの八割に関しても、そこから二割は義倉に・・・一割を次の年の種籾に・・・
だから実質上、作り手の取り分は、獲れた内の半分があるはずなのに―――>
〔そう・・・“祖”という税を取り立てられるのに、獲れたうちの半分以上を収めていた―――ということを耳にするに及び、
女禍様はとても奇妙に感じていたのです。
それもそのはず、ご自身が統治していた頃には、民達の生活が潤うよう、その半分を民達の取り分に決めていたはず―――なのに、
そして、それは不変のものになるであろう・・・と、思っていたのに・・・・。
しかし―――ここまで巡察してきて、耕作地の半数以上が遊んでいる・・・・その理由がこれならば、非常に由々しき事態であることには変わらないのです。
そこで――――・・・〕
ア:あの・・・失礼ついででなんだけども、その鍬を貸してもらえないだろうか。
農:ぁあ?! なして〜〜―――・・・・だ。
ア:ナニ―――ほんの僅かだけれども、私も手伝おう・・・と、いうことなんだよ。
農:はぁ〜〜―――ん・・・・そりゃ、かまやしないけれど・・・・(ジロジロ)
ア:ああ―――この服が気になるのかい? 心配しなくとも、手伝うときには脱ぐよ。
ほら、(する――・・・)これで、どうかな?
農:ふぅ〜〜ん・・・まぁ、いいっか。
ほらよ――――
ア:ありがとう。(にっこり)
どれ、ひとつ――――― ふんっ―――!(ザッ―――)
〔なんとアヱカは、自らこの土地の農耕を手伝う―――と言ったのです。
(それも、自分が新州公であることを伏せたまま。)
でも―――元々自分の土地を耕していた民は、その時のアヱカの身なり服装を見・・・とても訝(いぶか)しく思ったのです。
それというのも――――普通の散策者にしては、上等の服を着ていたから・・・。
そこでアヱカは、それを払拭させるために、、わざわざ上着を脱ぎ、少し動きやすい姿になったところで、農耕のお手伝いをしたのです。〕
ア:ふんっ――――(ザッ―――)ぃよいしょ――――(ガッ―――)それッ―――(ガッ―――)
ぷふぅ〜〜―――(ザ・・・)
農:ホホぉ〜〜―――・・・へえぇ〜〜―――・・・
あんた、中々手馴れた手つきでねぇだか。
ア:はは――― そう褒められた事じゃあないよ。
私も以前は、土に親しんだことがあるからね・・・。
農:へぇ〜〜―――
ア:どれ、もうひとつ・・・ふんっ――――(ザシュ―――ザッ・・・ザッ・・・・)
ア:<本当に、手馴れた手つきですこと・・・・。>
女:<うん? どうかしたのかい?アヱカ―――>
ア:<いえ・・・この方の言われるように、“皇”であられたあなた様が、こんなにも農耕作が上手―――だなんて・・・>
女:<あはは――― おや、言わなかったかい? 以前にも土に親しんだ事がある―――・・・って。>
ア:<ええっ? で、でも・・・あれは、わたくしの事を言ってらしたのでは?>
女:<うふふ――― そうか、アヱカは知らなかったんだね。
実をいうとね、ナニを隠そう・・・私もシャクラディアの城で、自分なりに農耕作を愉しんでいたんだよ。>
ア:<えっ―――?! それは、本当なのです??>
女:<こんな事を嘘吐いても何にもならないよ・・・。
まぁ・・・そのお蔭で、周りの官達からは、白い目で見られたりはしたけれども・・・ね。>
〔そう・・・その時、実際にこの土地の耕作をしていたのは、古えの皇であったこの方―――女禍様だったのです。
が―――これが宜しく上手だったみたいで、この土地の農民やアヱカをも驚かせたようです。
しかも、アヱカからの問いかけにも、『以前にも土に親しんでいた』―――とは・・・
そう、このお方こそ、『物を作る悦び』を知っていらしたのです。〕