≪第三節;運命の歯車≫

 

 

〔ところ変わって、飲食店に入った姫君のほうは・・・〕

 

 

ア:は・・・・あぁ・・・。

  (こ、これが・・・下々の方の暮らし・・・)

  ―――・・・。

 

主:おや、お嬢さん、あまり見ない顔だね? 初めてなんですかい?

ア:えっ?えぇ・・・はい、そうです。

 

主:ほーう、んじゃあなんにするかい。

ア:そ、そうですね・・・・とりあえずは、体の温かくなるものを・・・

 

主:はいはい、承知しましたよ・・・っと。

  ほれ、どうぞ。

 

ア:ありがとうございます・・・。

  まぁ・・・スープ。

 

  あぁ・・・美味しい・・・スープがこんなにも美味しいものだったなんて・・・。

 

主:へへっ、美しいお嬢さんに、そう言ってもらえるたぁ嬉しいやぁ〜ねぇ。

  どうだい?もう一杯。

ア:えっ?!そうですか・・・? 済みません、本当に・・・では、遠慮なく。

 

主:へへっ、承知、承知。

 

 

〔日頃、お城では何不自由なく過ごせた姫君。

それがたった一杯のスープが・・・実に数日振りの食事が、こんなにも美味しいものだとは、夢にも思わなかったことでしょう。

 

でも・・・ところが。〕

 

 

ア:ああ・・・・もうお腹が一杯・・・。 ありがとうございます、ここのところ何も食べていなくて・・・。

主:へぇ〜〜、ほいじゃあマケにマケて、100ギルダーにしとこう。

 

ア:ありがとうございます・・・重ね重ね・・。

  あ・・・っ、あら??

 

主:どうか・・・・したんですかい・・・?

 

ア:え?い・・・いえ・・・。 (お、おかしいわ・・・路銀入れが・・・なくなっている?)

  ど・・・どこかにでも落としたのかしら・・・

 

 

〔すると、今まで愛想の良かった、この店の主人の表情が一変してしまったのです。〕

 

 

主:おい、ちょいと・・・・あんた。

  ひょっとして・・・食い逃げかい。

 

ア:えっ?!い・・・いえ、そ、そんな事は・・・で、でも確かに先程まであったんです、本当なんです、信じて下さい!!

 

主:おぉや・・・まぁ・・・ちょいと上品そうな顔立ちしてるから、サービスしてやりゃあ、とんだ女狐だったってワケだ・・・

 

ア:そっ・・・そんな言い方・・・・わ、わたくしは由緒正しき家の出です!

 

主:ほほゥ・・・んで?そんな証拠が、一体どこにございますんで??

 

ア:そ・・・それは・・・・それが、一緒に落としてしまったらしくて・・・

 

主:ハっ!!お次はそうきなすったかい。

  いいかい・・・あんた・・・言い訳なら、もちっとマシなことを言うんだな。

  今日びじゃ、ンな事・・・ガキでも言わんぜ・・・

 

ア:あぁ・・・っ、お、お願いです!信じて・・・信じて下さい!!

 

主:ち・・・・・っ、今度は泣き落としかい。

  縁起じゃあねぇったらありゃしねぇ・・・・。

  お代はいいからとっととこっから出てくんなッ! そして・・・金輪際ここの暖簾はくぐるんじゃあねぇ!!

 

ア:あああっ!

 

 

〔なんと・・・性質の悪い食い逃げに間違われてしまった姫君。

しかも、自分の身分を証明するものまでなくしてしまっては、立つものも立たなかった事でしょう。

 

しかし・・・この店の主の言う事も、尤(もっと)もだったのです。

この地は、ありとあらゆる「ならず者」が徘徊する、巣窟のようなところ、食い逃げや恐喝などは、日常茶飯事的に行われていたのです。

 

つまりは、運の悪いことには、この姫君は、その類と間違われてしまったのです。

 

 

そして・・・・なんと、ここで、この一件を起こした張本人の、あの盗賊が偶然にもそこを通りかかったのです。〕

 

 

ア:そ・・・そんな・・・・こんな事って・・・・

 

 

ス:ぅんん??(おや、あれは・・・)

  ヤレヤレ・・・仕方ないねぇ、返してやるか。

 

 

ア:(お父様・・・お母様・・・・ガムラ・・・・マサラ・・・!!わたくしは・・・一体どうしたら・・・!!)

ス:あの・・・ちょっといいですかい?

 

ア:え・・・?は、はい。

ス:これ・・・先の路地で落ちてたのを見つけたんでやんすがね?あんたさんのじゃあ、ねぇんですかい?

 

ア:(え・・・??) あ・・・っ、こ、これ、わたくしの・・・路銀入れ!?ど・・・どうしてこれを・・・・あなたが?!

ス:えっ?! い、いやなに・・・あんたさんが落としたのを、偶然ワシが見ててねぇ? 拾ってあげてたんスよ・・・。

 

ア:・・・・・・・・。

ス:(チッ!我れながら下手な言い訳だぜ・・・今時ガキでもこんな見え透いた・・・)

 

ア:あ、ありがとうございます!! 見ず知らずのわたくしに、こんなに善くしてくれるだなんて・・・あの、なんてお礼を言ってよいやら・・・。

 

ス:へっ??!い・・・いゃあ・・・ナニ、ワシぁ・・・と、当然の事をしたまででさぁ・・・。

  な、なんもそんな御礼をしてもらえるほどの事は・・・(お、おい・・・まぢかよ、し、信じちまったぜ?この人・・・)

 

ア:あっ!それより、先程ここで頂いたスープのお代金、支払わないと・・・・

  あの、申し訳ありませんが、ここで少し待っていて下さいませんか?

 

ス:ぇ・・・・あ・・・・(って、こりゃあまさに、お人好しを画に描いたようなお人だねぇ・・・)

 

 

〔そして、未払いだったスープの代金を支払うに際しても、まるで自分に非があるかのような、平身低頭なその姿勢は、店の主人を唸らせたと言います。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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