<第二章;夜ノ街>
≪第一節;ステラバスター≫
〔さて・・・姫君の国が滅亡し、彼女もまた流浪の身となってしまった現在。
お話の舞台、その場所を少し移動しまして・・・
ここは、ガルバディアにある、とある街。
しかし、この街には正式な名称はなく、誰彼なくこう呼んだそうです。
それは―――・・・
『夜の街』
では、なぜここがそう呼ばれるようになったか、というと。
それは、この街には統括する者がおらず、代わりにとある者達が跋扈する、という処だったのです。
その・・・「とある者達」とは・・・?
野盗やスリ、盗賊・山賊
と、云った者達・・・
そう、世に云う「ならず者達」の巣窟だったのです。
それでは、かといって、このならず者達がこの街に巣食う理由はどこにあったのでしょうか。
それは、この者達を一つに纏め上げる、ある機関の存在があったから・・・
その名も―――・・・
『ギルド』
この「ギルド」と、呼ばれるところで、盗賊や、野盗達は、己れの持ち合わせている情報を交し合ったり、
そしてこのギルドの長に、今まで分捕ってきたモノを上納する事により、互いの利害関係を保ちあう・・・という事をして来たのです。
(それは、 ギブ・アンド・テイク ・・・・つまりは、利害関係によるものであり、彼らの中には『信頼』と呼べるものはなかったようです。)
そして・・・・ここに、このお話しになくてはならない「キー・パーソン」が・・・・。
背は、この界隈の誰よりも低く・・・
身には、いつもボロを纏っている・・・
その見た目にも、みすぼらしい男・・・
その男の名は―――・・・〕
ス:(ステラバスター;男性;24歳ぐらい・・・;その日の生計を、スリ等で賄っているという、ケチな男・・・・のようであるが??)
ふふぅ〜〜ん・・・皆さん、景気の悪そうな面ァしてんねぇ〜〜。
いよっ、どうだいサヤさん、あんたんとこの景気は。
サ:(サヤ;女性;20歳;見かけは20歳ぐらい・・・に、見えるのだが???)
おや、誰かと思ったらあんたかい。
いゃあ〜〜ねぇ・・・どこも同じだよ、どっか浮いた話でもないもんかね・・・。
ス:(ふぅ〜〜ん・・・) ところでよぅ、最近、ここの・・・・ギルドの頭領、変わったそうじゃないの。
サ:ああ、そうそう・・・なんでも、二・三ヶ月前に、ひょっこり現れたのが、前の頭領の頸・・・・取ったんだと。
その時は、「もしかして、ここを取り込もうとする連中の仕業か・・・」なんて囁(ささや)かれた事もあったけどさあ。
ところが、今じゃそいつが現頭領の椅子に座ってんだってよ。
ス:ほほーう・・・んで、名前は?
サ:はあァ?あたしらみたいな下っ端が、ンな事まで知るわけないじゃんよ、カンベンしてよ・・・。
ス:オォ・・・っと、そうかい、そいつはすまなかったね。
(ふぅ〜〜ん・・・そうかい、ここの頭領の首、挿(す)げ変わったって聞いちゃあいたが・・・・もうそんなになるんでやんスねぇ・・・。)
〔どうやらこのスリの男―――ここ数ヶ月はこの街にはいなかったみたいで、
自分がいなかった間に、「ギルド」の頭領が変わったと風の噂に聞いたことを、同業者であるサヤ某から確認を取ったのです。
それにしても―――どうやら・・・ここのギルドの頭領、今はその首がすげ変わっている・・・というようなのですが、
その正体・・・ましてや顔は、どうやらその中の構成員である、彼らまでには知れ渡っていないようなのです。
それより・・・・あの―――姫君はどうなったのでしょうか・・・
あれから・・・幾日が経ったのでしょう―――
けれど、可哀想にもこの姫君は、食事・・・況(ま)してや水さえも口にはしていなかったようなのです。
しかも、ここ数日、周りの草木の囁きや、小禽、獣達の立てる物音に身を縮め、戦(おのの)きながらも、命ばかりは永らえてきているようです。
それに、その御髪(おぐし)には、かつてのような艶(つや)は無くなり・・・・
そのおみ足も、履いていた靴はどこかへ行き、文字通りの徒歩(かち)だったようです。〕
ア:はぁ・・・・はぁぁ・・・・。
つ・・・辛い・・・とても・・・一人で生きていくというのが、こんなにも辛い事だったなんて・・・。
〔しかも、今まで―――「蝶よ・・・華よ・・・」と、傅(かしず)かれて生活をしてきた姫君には、これからを自分一人でせよ・・・とは、酷な話だったのです。〕
ア:そ、そんなことより・・・今は人家を探さないと・・・安心して休める場所を探さないと・・・!!
〔そう思い、姫君が峠を越えると、一つ・・・だけでなく、複数の明かりが・・・
そう、幸か不幸か、この姫君が辿り着いたその先は・・・あの「夜ノ街」だったのです。〕
ア:あぁ・・・っ、街―――
よ・・・良かった・・・これで今宵一晩だけでも、泊めて頂ける場所を探す事が出来る・・・!!
〔姫君・・・今まで高貴な暮らしをし、その暮らししか知らない姫君。
その彼女が、今入らんとしているところは、明らかに今まで知っている人種とは違う種族、
野盗や、盗賊と言った類の者達は、元を質(ただ)せば、支配階級から虐げられてきた、民達の成れの果て・・・・
そのような濁ったドブ河のような処に、清流しか住まわない魚を放してしまったら、どうなるか・・・・
それは、推して知るべしでありましょう。
そして、そこへ・・・なんと、あの盗賊が、かの姫君の姿を捕捉せんとしていたのです。〕
そして・・・今
運命の歯車が
音を立てて
廻り始めたのです。