<第二十一章;暗闘の日々>
≪一節;召喚状≫
〔さて―――アヱカが、ガク州の州公として、この地に赴任してきて、早一週間のときが経ち、
少しばかり落ち着いたところへ・・・
こんな出来事があったようです。〕
セ:いかがなされましたか、州公様。
ア:これはセキ殿・・・お呼びしたのは他でもありません。
――――これに目を通していただけませんか。
〔未だ、この州城に逗留している、侍中・セキの目の前に差し出された書片一通―――
しかし、たったこの一通が、これから永きにわたる・・・ある種じめじめとした陰湿な争いになろうとは、
このときは、誰しもが予測だにしえなかったことでしょう。
それでは、その書片には何が書かれていたのか―――〕
セ:・・・・・・これは―――
ア:はい・・・以前に、私が独断で高価なモノを払い下げた、その事の是非を問うものです・・・。
セ:しかし―――、その為だけに中央に出頭して来い―――とは・・・
第一、
そのようなことは紙切れ一枚で済まされることだろうに。
アヱカ様、行ってはなりませんぞ、これは明らかなるワナでございますれば・・・。
ア:・・・・しかし、“命”は“命”だ、従わないわけには行かないでしょう・・・。
それに―――、こういったことを反故にしてしまって、難癖を付けられるのもあまり得策とは・・・
すぐに出立の準備を――――
〔こうして――― 半ば、何かのワナが張り巡らされていると、判りつつも、
中央府から下された、命令には逆らえない事も判っているので、アヱカはセキを伴い、首都・ウェオブリへと向かったのです。
そして、ウェオブリ城に到着して、早速使いの者が現れ――――〕
使:ガク州公・アヱカ様でございますね―――、お待ちしておりました。
ご案内いたしますので、こちらに・・・
ああ、それと――― セキ様はイク様がお呼びでしたので、あの方の下へ・・・・、
セ:なんと―――? 尚書令様が?
どうしたことなのだろうか・・・・ああ、いや分かった、すぐに参ろう。
使:・・・・。(ニヤリ)
それでは、州公様はこちらに―――
ア:はい――――
女:<なんだか・・・随分と間が良過ぎるなぁ。>
ア:<どうか・・・なさったのです?>
女:<いや―――・・・気の所為だけならいいのだけれど・・・
私たちが到着してすぐに、セキ殿と引き離すなんて―――と、思ってね。>
ア:<そういわれてみれば・・・そうですわね。>
〔それは、確かに奇妙な事だったのです。
それというのも、アヱカとセキがウェオブリ城に着くや否や、
尚書令・イクの一派であるセキに、この使者は『すぐに彼の下に行くように』と指示したのだから。
そのことに、女禍様も『気の所為ならば―――・・・』と、しながらも、どこか不安なものを感じていたようです。
そして、それは現実的なものとなって顕われ――――〕
使:ところで―――州公様におかれては、この度なぜここに出向かわなければならなくなったか―――
心当たりはありませぬかな?
ア:――――はい? さあ・・・わたくしは、この度はこちらへの召喚状をいただいて来ただけですので・・・
使:ほぉ―――心当たりがない・・・と?
ア:はい・・・。
使:――――では・・・そちらの書状に認められている嫌疑の是非については、いかがなものですかな。
ア:・・・・・はぁ―――?
使:(ふぅ・・・ヤレヤレ―――)気のつかん輩だな・・・。(ボソ)
では―――こちらにて、沙汰を待つように。
〔それこそは奇妙―――まさに奇妙そのもの。
今回のガク州・州公アヱカが、ウェオブリに来た経緯を知らないわけではないのに、その事由をしつこく聞いてきたその使者―――
でも、それはあることの示唆、催促でもあったのです。
そして、当然その事を知っていたこの方は・・・〕
ア:あの方・・・あんな回りくどい言い方をなさって、同じような事を二度繰り返して聞いてくるなんて・・・
どうかなさったのでしょうか。
女:<――――・・・。>
ア:<あの・・・女禍様?>
女:<あんなもの・・・無視するに越したことはない!!>
ア:<ど、どうかなさったのですか?>
女:<アヱカ・・・君も、この際だからよく憶えておくといい・・・。
今の彼は、賂(まいな)いの催促をしていたのだよ。>
ア:<えっ―――ええっ?!! ま、賂い・・・?な、なぜ??>
女:<全くもって怪しからない―――!!
一体何の用件で、ここに呼び出されたのかと思えば・・・白昼堂々とあんなモノの催促とは!!>
〔それは―――紛れもなく、“賄賂”の催促だったのです。
それが、白昼堂々と横行しているようになるとは・・・それゆえに女禍様は憤りを隠せなかったのです。
そして―――そのことは一方のこちら・・・アヱカに、賄賂の催促をしたにもかかわらず、
それを貰えず、手ぶらで帰ってきたその使者と、彼を庇護する者たちが・・・〕
侍:それで―――どうだったかな?
侍:此度の州公はいか程の者であったか―――?
使:全くもって、怪しからないのにも程があります―――。
再三分かりやすいように促しておりますのに、それであるにもかかわらず、判らない―――惚けたフリをするとは・・・。
侍:ほぉ・・・では、我等に協力する気はさらさらない・・・と。
使:はい・・・そのようで。
ですが、今回そうしなかった事を、悔やむことになるでしょうよ。
〔そこには、事前に支払うべきものを・・・催促したにもかかわらず、支払わなかった者に対して、
このあと“どうするか―――”の対応と措置が練られていたのです。〕