≪四節;サナトリウムにて―――≫
〔それはそうと、このとき以外の州公のは、なにをしていたのでしょうか。
それは―――あくるとき・・・アヱカは、あの施設に来ていたのです。〕
ア:お邪魔いたします―――、ご容態はいかがですか?
ヒ:あっ―――アヱカ・・・いえ、ガク州公様ではありませんか。
ア:あ・・・申し訳ありません、今日は“州公”として参ったつもりはなかったのですが・・・
ヒ:あぁ―――・・・いや・・・それはこちらこそ・・・・いらない事を言ってしまいました・・・・。
ア:いいえ、あなた様はこの国の太子様なのですから、“いらない事”などと申されないで下さいませ・・・。(にっこり)
〔そう・・・このフ国の太子である、ヒョウ=ノトス=アレキサンダーが治療を受けているという、
サナトリウムに、その後の治療の経過・容態を伺いに、顔を覗かせていたのです。〕
ヒ:そう・・・だったのですか―――彼等に呼ばれて・・・
ア:はい・・・ですが、わたくしにしてみれば、何も疚(やま)しい事などはしておりませんので、
どのような嫌疑をかけられでも、平気でございます。
ヒ:はは―――・・・アヱカさんは、顔に似合わず剛毅な方だったんですね。
ア:あら―――いやだ・・・わたくしとしたことが、はしたない。(おほほ・・・)
ヒ:いえ、そんなことはありませんよ、むしろ私も見習いたいくらいだ・・・。(にこにこ)
ア:・・・・。
(やっと・・・お笑いになって下された――― そうですわ、この方はこの国の至宝なのですから、
お暗い顔はお似合いになりませんわ―――・・・)
〔それは・・・“州公”と“太子”という肩書きがなければ、普通その辺にいる、男女の会話とさして変わりはなかった情景だったのです。
―――と、そんなところへ・・・〕
ホ:兄ィさまぁ~~――― あっ、お姉ちゃん!
ア:これは王子様、ご無沙汰をいたしております・・・。
ヒ:やぁ―――来たのかい、ホウ。
ホ:うんっ―――! 母さまと一緒にね。
ア:(王后様と・・・)そ―――それでは、わたくしはこれで失礼させて・・・
ヒ:(あ・・・)アヱカ・・・さん―――
ア:えっ―――・・・(クル)
ホ:あれぇっ? 兄さまと姉ちゃん・・・顔赤いよ? どうしたの??
ヒ:(赤ッ)こっ―――・・・コラッ! ホウ・・・よ、余計な事を言うんじゃあない。
ア:(紅ッ)し―――失礼いたします・・・
〔元気よく入室してきたのは、この国、王位継承権第二位の、ホウ=ボレアス=アレキサンダー。
でも、この王子が来た・・・と、いうことは、その母親の、王后・リジュも来ているということに他ならず・・・
だから―――アヱカは、折角笑顔の戻った、太子のヒョウや、王后・リジュの心象を損ねては―――・・・と、
早々にサナトリウムを去るようです。
と、ところが―――・・・〕
リ:これっ―――待ちゃれ!!
ア:(あ・・・っ―――)お、お后様・・・・。
リ:なんじゃ、小娘めが―――! お前は、自分が州公になったのをよいことに・・・
その地位を利用して、太子様に淫行を働きに参ったのか―――!!
ア:(い・・・淫・・・行―――!!)
い・・・いいえ―――いいえ―――!! そ、それは間違いでございます!!
わ、わたくしは、太子様に対し・・・決してそのような―――・・・
わたくしは・・・ただ―――太子様に、一日でも早く良くなってもらおうと・・・
リ:ええいっ―――黙りやっ!!
よくもまぁ・・・そのような詭弁をぬけぬけと―――
こうしてくれるっ―――こうしてくれるっ―――!!
ア:ああっ―――誤解・・・誤解でございます・・・・。