≪三節;固執する価値のないもの≫

 

 

〔それはそうと、こちらガク州では―――いつにも増して苛立っている者が・・・〕

 

 

ヒ:ちッ―――(イラっ)全くよう・・・面白くもねぇ・・・。(イライラ)

 

 

兵:ああ・・・・

兵:お、おいおい・・・

兵:ありゃぁ〜もう噴火寸前だぞ?

 

 

ヒ:(ギロッ!)ナニそこでぶつくさ言ってやがんでぇ―――!#(ガルル・・・)

 

兵:ひ―――ひいっ!

兵:あっ―――ああ・・・司馬様!

 

ヒ:ああンっ―――?!

 

キ:全く・・・苛立ってるから―――って、兵卒にあたることはないでしょう?

ヒ:はっ―――そいつはどうもでぇ〜・・・(ケッ!)

 

キ:(フフっ―――・・・)相当に・・・鬱屈が溜まっているようね。

  いいわ、これからその砦に行くんだけれど――――どう?

 

ヒ:ぁあ?!――――ったりめぇだろが・・・。

 

 

〔見るからにその者の不満は、今にも爆発しそうで、兵達もおいそれとは近づけない様子―――

でも、ヒは、そんなことはお構いもなしに、彼等に当り散らしていたのです。

 

そんな彼を咎めながらも、これから戦場となる=グランデル砦=に、赴かんとする州司馬と虎鬚の将。

 

 

そして、その砦について、一行の目にしたモノとは―――〕

 

 

兵:すっ―――すげぇ・・・

兵:見ろよ・・・あたり一面・・・・

兵:真っ黒―――

 

ヒ:へっ―――なに怖気づいてやがんでェ。

  攻むるも敵なら、退くもまた敵・・・ってなあ、これなら同士討ちもねぇから安心しろや、なぁ?!

 

兵:(え゛っ・・・え゛え゛〜・・・?!)

兵:(ぢ・・・冗談だろ?おい―――)

兵:(あぁ〜・・・オレの人生、今日ここで終わんのかなぁ・・・)

 

 

キ:(フ―――・・・思った通りだわ、数も武も、圧倒的に向こうが勝っているけど、こちらにはもう・・・)

  しかし―――これでは、ここを固執する理由なんて、ないわね・・・。

 

ヒ:あ゛あ゛?!ナニ言ってんだ、あんた―――

キ:来た早々で悪いけれど、こんな馬鹿馬鹿しい戦いで命を棄てるのは、性に合わないの。

 

ヒ:お゛いっ―――! 州司馬たる人間が、兵の前で、そんな弱気な発言するもんじゃあねぇ!!

キ:・・・だって、本当の事だもの―――

 

ヒ:なぁ゛っ?! こっ・・・こんのぉ〜―――!#

 

キ:でも・・・“最後っ屁”をかますくらいなら、この兵力でも何とかなるわ・・・

ヒ:―――は?? “最後っ屁”? なんだ・・・そりゃ―――

 

 

〔この砦の前面には、圧倒的な数の、カ・ルマの軍旗が翻っており、否が応にも戦意の喪失は避けられない状態だったのです。

 

でも・・・ここに一人――ヒだけは違ったようで、そんな彼等兵卒達を鼓舞する一面もあるのですが、

それを州司馬たるキリエが、『こんな砦に固執する必要はない』として、今の時点で州軍がとるべき方針を打ち出してしまったのです。

 

それこそは、『この砦からの全面撤退』――――ですが、これは“ある計略”の一環でもあったのです。〕

 

 

ヒ:は??『空城の計』?? なんだ、そいつぁ――――・・・

キ:つまり、この砦に我らの旗のみを立てておき―――それで彼等が戸惑っているスキに、全軍を撤退させる―――と、いうことなのよ。

 

ヒ:お―――おい、何も最初(はな)ッから“逃げ”の算段打たなくっても―――

キ:そうがっかりしなくても―――、兵を一人も損ねないためにも、あなたには“殿”(しんがり)を頼むつもりなのよ。

 

ヒ:な・・・なぁにぃ?!し、殿?? ほ・・・ホントか?!そりゃ―――

キ:えぇ〜・・・(ニコ)

 

 

〔キリエは―――最初ッから、こんな危険な戦闘は・・・兵達を戦わせるつもりなど、毛頭もなかったのです。

それゆえに打ち出された“計略”こそが『空城の計』だったのです。

 

でも、ただ退くだけでは、この荒くれ者を納得させるのは難しい―――と考えたキリエは、

最も難しく―――過酷で―――しかも“華”のある任務、『殿』を命じたのです。

 

そして、撤退戦の開始―――これからの手順を、分かり易いように、地図と駒を使って説明をしていくキリエが・・・〕

 

 

キ:いい―――私はこの地点にいるから、あなたたちはすぐに州城に戻って、志がある者達だけを募ってて―――

  それから虎鬚(こぜん)殿、あなたもこの中では武辺を誇れる者でしょうけど・・・

  あなたのところの小隊だけでは、数に勝れるあの者達には、歯が立たなくなるでしょう―――

  ですから、機を見計らって撤退をするように・・・わかりましたね。

 

ヒ:へっ―――心配するもんじゃあねェよ、このオレがくたばる時ゃぁ、一人でも多くのヤツを道連れにしてやるぜ!!

 

キ:(キッ――!)馬鹿ッ―――! 私が言ってるのは、州公様の民を、一人でも多く損ねることなく戦闘を終わらせる事にあるのよ!!?

  それを・・・今あなたが憤死したところで、あの方の哀しみは増すばかり―――それをどうして分からないの??!

 

ヒ:(おぉッ・・・?)キ、キリエ―――・・・あんたぁ・・・

キ:ご、ごめんなさい・・・つい怒鳴ってしまって・・・。

  でも、これはとても重要なことなのよ、判って頂戴―――

 

 

〔“一兵も損ねることなく”・・・とは、そう易くないこと、それが対等な数でなするのも困難なのに、

今、自分たちが相手にしようとしている数は、十倍からの差が・・・それゆえの『空城の計』なのですが、

すでに鼻息の荒くなっている者には、まさに『馬の耳に念仏』といったところか―――

『一人でも多くを道連れに』・・・と、口にしたのを、どうやらキリエからきつく咎められたようです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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