<第二十三章;再びの挑戦>
≪一節;渉りに船≫
〔カ・ルマが侵攻してきた―――と、見るや否や、それを迎撃すべく出動したガク州軍・・・
でも、しかし―――圧倒的な兵力差の下(もと)に、敵わぬと見たのか、時の州軍司馬であるキリエは、砦からの撤退の意思表示しかしなかったのです。
ですが・・・何処より現れたる、異形の騎士の出現にて、一兵を損なうことなく、撤退戦は完遂する事が出来たのです。
それはそれとして、一方のこちら・・・未だ、ウェオブリに留まる、ガク州公・アヱカは、査問の対象から抜けられないでいたのです。〕
審:では・・・〜〜〜〜―――――――なのでございますな?
ア:はい――――その通りでございます・・・・。
審:(ふぅむ・・・)では、次――――
ア:(はぁ〜〜〜・・・・いい加減やめてもらえないものかな、それでなくとも、今ガク州は、大変なことになっているというのに・・・。)
(はぁ・・・)全く―――・・・・
審:はあ?今、何か言われましたか??
ア:えっ?!あっ―――いえ、独り言です・・・・
〔どうやらこちらの方でも、まるで重箱の隅をつつくような質疑に、精神的にも参ってきているようでございます。
そして―――、この質疑の合間に、設けられた休憩の時間中―――― 思いもかけないような、こんな出来事が・・・〕
ア:(はぁ・・・・私のときにでも、こんなにもかからなかったものなのに・・・甘く見過ぎてしまったな。)
<ええ、本当に―――・・・>
女:<アヱカ・・・済まないことをしたね、少しでも民たちの暮らしが、良くなるようにしようとしたのだけれど・・・
その結果がこれでは―――・・・浅知恵は、休むに似たり・・・だね。>
ア:<いえ、わたくしは決してそうは思っておりま―――・・・>
―――バ ン ッ!☆―――
〔すると突然―――休憩室の扉が、けたたましい音を立てて開かれたのです。
そして、そこにいたのはなんと―――・・・・〕
ア:(えっ?!)あっ―――・・・あなた様は!!
女:<王后・リジュ??! どうしてこの者がここに・・・?>
リ:(ジロリ)・・・・うぬは、このようなところで何をしておる。
ア:わっ・・・・わたくしは、以前(さき)に、わたくしがなした政策(こと)の弁明に―――
リ:そのようなことを聞いておるのではないわっ―――!!
聞けば・・・うぬがお上より与った所領・・・・不逞の輩により、侵略を受けておるそうではないかえ!!
ア:ええっ?!
女:<ど・・・どうしてそのことを・・・??>
リ:ふん―――・・・なんじゃ、その顔は・・・。
自分でさえも知らぬ、治領で起こっておる事を・・・・どうして妾が知っておるのか―――と、言う顔つきじゃな。
この国の・・・王の后である妾が、斯様な事を存じておらぬとでも、思うておったのか―――!
見くびるではないわッ!!
〔そう、そこにいたのは、なんと・・・前にも増して、アヱカへの風当たりが強くなった、王后・リジュがいたのです。
しかも、そこで言い置かれたのは、フ国の領土の一部である、ガク州侵攻の報――――
普通ならば、州公であるアヱカでさえ、知らないような事実を・・・・どうしてこの時、リジュが知りおけたのか――――
しかも、このとき間の悪いことに・・・現在、アヱカが審問会を受けているところの長が、
休憩時間の終了とともに、質疑の再開を告げるために、その部屋へと入ってきたのです・・・〕
―――が―――
リ:(ジロッ―――)うぬは・・・・ナニをここでしておる!!
審:は―――・・・は?? これは異な事を・・・
ガク州公が、ご自身の持ち物を、民に払い下げにしたことの真偽を確かめに・・・・
リ:この・・・・タワケ者が!!
ア:(えッ?!!)
審:はぁあ?!!
リ:このようなことに・・・一々手間隙をかけておるのではないわ!!
今、この国の領土の一つであるガク州が、侵攻を受けておるというに!!
審:はぁ・・・しかし、そのようなことは、未だ中央府までは―――・・・
〔なんと―――ここで一同を驚かせたことに・・・リジュは、その審問官長を叱り飛ばしたのです。
それも、この程度の事に時間をかけすぎる―――と・・・。
しかも、このとき審問官長にとっては初耳である、『ガク州襲撃』を、ここで明らかにしたのです。
そのことに・・・まさに“寝耳に水”の審問官長―――と、そこへ・・・〕
兵:ガク州公・アヱカ様はこちらにおはしますか―――
ア:あ、はい・・・アヱカはわたくしでございますが・・・。
兵:自領、ガク州が侵攻されておるとの旨、確かに伝えましたぞ―――では、ゴメン!
審:―――――!!!
〔今にして・・・ようやく明らかとなった、ガク州への侵略・・・
そこには、ただ呆然とするしかなかった、審問官長と州公であるアヱカが・・・〕
リ:(ジロ・・・)何をしておるか!聞いておったのではないのかえ―――
ア:は―――はい・・・・
リ:“はい”ではなかろう! ナニを愚図愚図としておる!! 国家存亡の秋(とき)に、うぬはただ手を拱(こまね)いて見ておるだけなのか!!
ア:も―――申し訳ございません。
リ:よいな・・・うぬは畏れ多くも、フ国は州の一つをお上から与っておるのじゃぞ・・・
それを、『敵に侵攻されたから奪われた』などと申してみよ! その時は、うぬのその細頸一つでは済まされぬからな・・・そう心得よ!!
ア:は―――はいっ。
そ・・・それでは、これより取り急ぎ、ガク州へと戻らせて頂きとう存じます。
リ:前口上は良いから、さっさと行きゃれ―――!!
審:あっ―――ああ・・・お、お待ちを。
それでは、審問会の方はいかがいたしますので―――・・・
リ:・・・・うぬは、国家存亡の秋と、このような些事・・・どちらが大切なのかえ?!
審:しっ―――しかし・・・そうは申されましても、ボウ様にはどのように・・・
リ:・・・・兄上には、このことを妾より言って聞かせる・・・。
うぬがわざわざ心配するような事では―――――ない。
〔未だ、呆然とし続けているアヱカに対し、早急に自領に戻るよう・・・リジュは促したのです。
でも、アヱカが、ガク州に戻る・・・・と、いうことは、現在受けている審問会は、当然中止になってしまうわけで、
しかし、それでは、今度は審問官たちの立場がまづくなってしまい、それを立ち上げてアヱカの失脚を目論んでいた、
ボウの立場もなくなってしまうわけなのです。
―――が、そこはそれ、実の妹である王后自らが、兄を説得させるようです。
それはそうと、今はガク州への帰途へとついたアヱカは・・・・〕
ア:(しかし・・・あの人のあの変わりようは、一体どうしたことだろう?)
ア:<えっ?! それは・・・・どういう事なのです?>
女:<考えても御覧―――アヱカ、私たちは、当初からあのリジュという人に、好意は持たれていなかったのだよ?>
ア:<はぁ・・・まあ、それは確かに―――>
女:<それが・・・・なんて言っていいのかなぁ、ああいう容(かたち)にしろ、今、私たちは『審問会』から逃れられている―――>
ア:<あ―――!! い、言われてみれば・・・>
女:<これは―――ある意味、別の意思が介入しなければならないのだけど・・・今の時点では、それは特定できないんだよ。>
〔帰路を急ぐその馬車の車中では、女禍様がアヱカに言って聞かせていたのでした。
ご自分でさえも、半分辟易としていた審問会を、リジュの助力によって逃れられていた事を・・・・。
でも―――かの王后は、アヱカに対して余り好意は持っていなかったはずなのに――――
それが、ナゼ――――?どうして―――――??
その疑問を解く鍵が、これから始まろうとしているのです。〕