≪二節;“白き”『禽』≫
〔それからしばらくして――― 州公・アヱカの、審問会の“中止”の方を聞きつけたボウが、
実妹であり、王后であるリジュを尋ねたようです。〕
ボ:おい―――リジュ、これは一体どういう事なのだ。
リ:これは兄上――― して・・・“どういう事”とは?
ボ:とぼけるな! あのガク州公の審問を、途中で止めさせたそうじゃあないか!
リ:これは・・・異な事を。
光禄勲である兄上が、ガク州襲撃の報・・・知らぬはずはありますまいに。
ボ:そっ―――それは・・・使者を通じて、もうオレの耳にも届いておる事だが・・・
だが、それにしても、それよりも以前にお前は、かの州公をガク州に戻らせたそうではないか・・・。
リ:・・・・兄上―――
ボ:な・・・なんだ。
リ:そなたは・・・“国家”と、ご自分の“保身”と・・・どちらが大切なのですか。
ボ:(う゛・・・・・っ)
リ:それに―――、妾が、皆よりも先に、かの情報を知りえたのにも、それなりの理由がありますゆえに。
ボ:そ―――それはどういう事なのだ?!
リ:(フ・・・)実は―――ここ二・三日前に、妾が『占い師』を雇い入れた事・・・存じておりましょう?
ボ:あ? ああ―――・・・お前にしては、随分とまた、酔狂なことをするものよ・・・と、思っていたが・・・
それがどうかいたしたのか―――
リ:うむ・・・その『占い師』とやら、よく当たると評判がよい者でな―――
一つ、妾の前で占のうてもろうたのじゃが・・・・これが、恐ろしいくらいに当ておるのでな、
それで妾専属の者として、雇い入れたのじゃ。
ボ:なんと―――で、では・・・此度のも、その者が・・・??
リ:うむ――― これ、シズネ・・・入ってこりゃれ。
シ:は――――・・・。
〔このとき―――ボウは、済んでのところで大物を逃したように、リジュに向かい食って掛かったのですが・・・
それに対し、リジュのほうでは、何食わぬ顔で対応したばかりか、逆に実兄を窘めるように注意したのです。
これにより、逆にやり込められてしまったボウは、どうして実の妹が、自分たちより先に、かの情報を知りえたのが不思議なようなのですが・・・
その謎解きを、リジュ本人の口から聞いてみれば・・・彼女としては珍しく、ここ最近『占い』の類にはまっていたようで、
ここ最近、ウェオブリ城下で噂になっている『占い師』と会い、自分自身の目でそれを確かめたところ・・・
十中八九も誤りがなかったようで、それならば―――と、いうことで雇い入れたようなのです。
(しかも・・・今回の事、宜しくその『占い』で当てていたようで・・・)
そして―――リジュに入ってくるよう促され、入室してきた、件の『占い師』こそ・・・・
あの――シズネ――だったのです・・・。〕
ボ:(こっ・・・この者が?? し、しかし―――)・・・そなた―――目が・・・?
シ:・・・我が光は、薄くあれど、私には総てを知りうる術(すべ)がございます・・・。
ボ:その―――術・・・とは?
シ:それよりも・・・そなた、今朝方・・・後の楽しみにと、残しておいたものを―――幼な児に取られ、
その幼な児を・・・叱っていますね―――
ボ:な―――・・・っ、ナゼそのことを・・・
確かに―――今朝、朝食で、オレの好物を、息子のエンに取られ・・・つい叱ってしまったのだ・・・。
リ:ほぉ―――そのようなことが・・・
シ:それより―――、昨日言っていた事と、寸分も違ってはおりませんでしょう?
『この国の、浮沈に関わる事態が、北西の地にて進行しつつある・・・』と―――
リ:うむ・・・確かに、そなたの占いを信じておらなんだら、もう少しで取り返しのつかぬことに、なっておったようじゃ―――
シ:(フフ・・・)私の“卦”には、一寸の狂いもありませぬ、ゆえに―――
リ:む・・・大儀であった、どれ、これはほんの気持ちじゃ―――
シ:ありがたく・・・頂戴いたします―――
〔その者―――“白く”“美しく”も・・・“盲目”たり・・・されど、ある術をして、総てを知る法を得ていた・・・・
そう―――シズネこそは、五感のうちの『視覚』が乏しくあるものの、ある術式をもって、周囲の総てを知りうることを、身につけていたのです。
その術式こそ『八卦』と呼ばれるものなのですが、どうやらその『八卦』、すでにガルバディア大陸に根付いている『占い』の類とは、一線を画していたようです。〕