≪四節;慰問≫
〔閑話休題―――
ご自分にかけられていた、『審問会』を、王后の手助けにより抜け出し―――
とるものもとりあえず、風に逸(はや)るようにして、任地であるガク州へと戻ってきたアヱカは・・・〕
ア:皆さんは大丈夫ですか――――?!
キ:あっ・・・州公様。
はい、一名ほど負傷してしまいましたが、死亡者はおりません。
ア:そうでしたか・・・・それでは、その方はどこにいらっしゃいますの?
キ:はい、只今は医科のほうにおります。
ア:そうですか・・・・では、そこへ―――
キ:は―――・・・
〔急ぎの馬車を飛ばし、普段なら二日かかる道程を、一日に短縮させて戻り、
今までの『審問会』での質疑応答で、相当に疲れていただろうに・・・そのようなことには構いもしないで、
真っ先に、負傷した兵士への慰問を執り行ったのです。〕
ア:こちらが・・・そうでございますね――――入ります。
ヒ:ガ〜〜ッはッはは―――!! そっらァよ―――あいつ等の顔ったらなかったぜ?!
まるで、はとが豆鉄砲喰らった―――ってぇのは、あの事を言うんだろうよ・・・・なぁあ?!
兵:は・・・ははは――――(いて、いてて・・・)
し、将軍・・・笑わせないで下さいよ・・・傷に響きます。
看:まぁっ―――
看:(くすくす・・・)
ヒ:おぉ――――ッと、そうかい・・・まあ、そう云うなよ!(バンバン!)
兵:いた・・・イタイです―――って!!
ア:は〜〜――――・・・・(ぽかん)
キ:ん゛〜〜――――オッホンっ!!
ヒ:ん〜?! おぉぅ・・・誰かと思えば、司馬殿に―――・・・
兵:し・・・州公様!!?
看:(あ・・・)し、失礼します―――
看:お、お大事に―――
〔負傷しているから・・・さぞかし悄気(しょげ)ているもの―――と、そう思い入室してみれば・・・
なんと、先客にヒが来ており、負傷兵と看護婦二人を笑わかせていたのです。
しかも、その話題の中心は、どうやら前の撤退戦の模様を、彼なりに誇張化させていたようで、
でも、負傷者にしてみれば、それが傷に響くらしく、迷惑したり顔のようですが・・・
ここで―――キリエが咳払いを一つし、彼等の主が到着しているのを気付かせたようで、
そうすると看護婦二人は、楚々と病室をあとにしようとするのですが・・・〕
ア:いえ・・・よいのですよ、そのままにして下さい。
それに―――安心致しました、負傷者が出たから・・・と、心配していたのですが・・・大事に至らなくて。
本当によかったです。
ですから・・・今は、せめてこの傷を労わらせて下さい。
この傷は、半ばわたくしが負わせてしまったも同然なのですから・・・・。
ヒ:――――・・・・・。
キ:・・・・。(フ・・・ッ)
兵:(州公・・・・様)
ア:それに・・・この傷が、わたくしのものだったなら―――と、思うこともしばしばございます。
いつも、戦場に赴いて、傷を負ってくるのは、下級の兵卒の方ばかり―――
それに、そんな方々を見ていると、わたくしは心が痛くなってまいるのです。
命を張って、この国を護って下さる方々に―――わたくしは、今何をしてやれるだろう・・・と。
ですから、今は・・・・せめてこの傷を――――
ヒ:(・・・・へっ―――)(スンッ――!)
キ:(ありがたい御言葉を・・・)
兵:・・・・・―――――。(ぽろぽろ)
ア:あっ―――すみません・・・どこかいたむのですか?
兵:えっ―――? い・・・いえ―――
今・・・今まで―――そんな・・・こんなオレ達を、労わって下さる方はいなかったから・・・・それで――――
〔その時・・・アヱカの口から迸(ほとばし)ったのは、まさに慰労の言葉でした―――
それであるがゆえに、その言葉にて、泪を禁じえなかった者は、いなかったことでしょう。〕
キ:そう―――だからこそ・・・そんな州公様だからこそ、我々は命を賭する事が出来るのです。
ヒ:はっははは――――いや、その通りだ。
司馬殿も、中々大した事を言うじゃあないか、ちびってたとは少しも思えねぇや―――
キ:こっ――――これっ! 虎鬚殿・・・・(顔紅っ)
ヒ:おぉ―――ッと、そういえば、こいつは言っちゃあいけなかったんだっけか・・・なぁ??
キ:もうっ――――!(プリプリ)
〔しかし、そんな湿っぽい空気を嫌ったのか、ヒがあることを出しに、そこにいた皆を笑わせようとしたのです。
そう―――キリエのあの失態を・・・
でも、そのことは“暗黙の了解”の下で・・・・と、いうはずだったのに、
ヒのこの一言によって、自身の恥を白日の下に晒されてしまったキリエは、腹を立てたのですが―――
でも、そのおかげで、病室内は一気に和やかな雰囲気にはなったようです。
(しかし―――アヱカは、決して笑うようなことはなかったようですが・・・)〕