<第二十四章;一石を投じた後の波紋 =過去=>

 

≪一節;投じられた『一石』≫

 

 

〔さて―――ここで、話題の場所と時間を移し・・・

 

“時間”は・・・あの時―――そう、ギルド襲撃より、五日ほど経った“ある時”・・・。

そして“場所”は・・・ヴェルノア公国、国境の町『ニュルン』・・・。

 

その町に設置されている“関”に、今―――北西の方角・・・ハイネス・ブルグ方面より、

何者かが乗る騎馬が、一騎で向かってきたようです。〕

 

 

誰:開門―――開門―――!!

 

 

〔その騎乗者は、何か逼迫していたのでしょうか―――関所の門が開くや否や、やにわに駆け出し・・・

いや、しかし、駆け出しながらも、左手にあったあるモノを翳(かざ)したのです。

 

すると―――それを見た関所の門番は、その騎乗者を止めもせず、むしろその者に対し、最敬礼をして先に進ませたのです。

 

そして、その騎乗者は、一路―――この国の都<アルル・ハイム>へと向かったのでした。

 

 

それから・・・休む間もなく、五刻余りを費やし、別称“マジェスティック城”(威風堂々)として知られる名城―――アルル・ハイム城・・・

その正門ではなく、むしろ裏門に辿り着き、そこから入場をしたその騎乗者は、その余りにもの疲労に、倒れてしまったのです。

 

その・・・倒れた騎乗者に近づいた、この国の近衛兵の二人は・・・・〕

 

 

葵:(葵=シュビラ=ヤクトーノフ;20歳;女;この国の近衛兵の一人)

  (なにヤツ―――・・・)あっ―――!!

茜:(茜=ナジュラ=アンドロポフ;20歳;女;葵と同期の、近衛兵)

  こッ―――この方は!!?

 

 

〔本来ならば、狼藉に近しい事をした者のはずなのに・・・この二人を初め、城の者は誰一人として、見咎める事をしなかった・・・いや、できなかったのです。

 

なぜならば―――その騎乗者こそ、二・三年前に、ここの公主様と一緒に行方を晦(くら)まし・・・

そして、とうに亡くなったであろう―――と、された・・・

諫議大夫・衛将軍・紫苑=ヴァーユ=コーデリア

―――だったからなのです・・・。

 

 

それから暫らくして――――自分が寝床の上に横たわっている事に気付く紫苑・・・〕

 

 

紫:う・・・―――〜〜(ぼ〜)

  こ―――・・・ここは―――(はっ!)(アルル・ハイム!!)

 

安:(安瑠鄭四阿(アルテイシア)=ミトラ=ローデンヌ;19歳;女;この国の主簿)

  あっ―――お気づきになられましたか?諫議大夫様。

 

紫:安瑠鄭四阿(アルテイシア)―――そうだ・・・私は・・・

安:はい・・・三日前に、ここに辿り着くなり、お倒れになられて・・・それで、今まで―――

 

紫:ええっ?!み・・・三日も??もう―――そんなに・・・経つの・・・

安:は、はい。

  しかも、倒れられてもぴくりとも動かないので、それで・・・公主様にお取次ぎをしたところ―――・・・

 

紫:ナニ?!公主様に―――・・・??

安:え?あ、はい・・・。

  すると、公主様自らがお担ぎになられて・・・

 

紫:―――・・・。

安:あの、紫苑卿?

 

紫:・・・・そう、判ったわ。

  では、今一つ・・・公主様に、『紫苑が、火急の用がございますから』―――と、頼まれてくれない。

安:あ、はい・・・かしこまりました。

 

 

〔そこで紫苑は、今、自分が横臥されているこの場所が、アルル・ハイムの城の中にある、自分の部屋である・・・と、いうことに気付かされたのです。

 

そして、自分のすく傍に、人の気配がするので、すぐ確認すると・・・

それは、この国の主簿でもある安瑠鄭四阿(アルテイシア)だったのです。

 

 

それに―――その彼女が言うには、疲労が溜まって倒れてしまった自分を、自分の自室まで担いで運んでくれた存在こそ、

公主様である―――・・・と、そう聞かされたのですが・・・

 

ですが、この時―――紫苑は、なにやら神妙な面持ちで公主に取り次ぐよう、官の一人に促せたのです。

 

 

それから暫らくして、この部屋に、ヴェルノアの才女として誉れ高き・・・また、この国の“摂政”として在る、公主様が――――〕

 

 

公:おぉ―――おお!!気がついたか、紫苑!!

紫:・・・・このようなところから、斯様な無様な姿を晒し―――

  面目次第もございません・・・。

 

公:あ―――・・・ああ、よいよい、構わぬ。

  そなたさえ無事であったなら・・・な、それより―――件のコト、真に大儀であった・・・。

紫:は―――。

  では、それにつきましては・・・・(チラ)あの、御人払いを―――

 

公:お―――おお、そうであったな・・・これ、安瑠鄭四阿、もう下がってよいぞ。

安:はい・・・。

 

 

〔公主は、紫苑の無事な姿を見ると、すぐさまに駆け寄り、自分が幼少の頃より、第一に信頼を置いているこの官に対し、最大の賛辞をしたのです。

 

そして紫苑は、予(かね)てより公主から頼まれていたであろうことの、報告をするため・・・丁度そこにいた安瑠鄭四阿を下がらせるよう、

公主様に目配せをしたのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>>