≪二節;二・三年前のあの日・・・≫

 

 

〔ですが、しかし―――・・・たった二人きりになったこの部屋で・・・・

自分の主であるはずの“公主”に対し、従者であるはずの紫苑が、投げかけた言葉は―――・・・〕

 

 

紫:フ―――・・・・フフフ・・・・ククク・・・・

公:ど・・・どうしたのじゃ、ナニがおかしいのか、紫苑・・・

 

紫:――――・・・・全く・・・気味の悪いほど、あのお方に似ていらっしゃる・・・・

公:(うぐ・・・っ)

 

 

〔ナゼ・・・どうして・・・紫苑は、自分の主である者に対し、こんな暴言紛いの言を吐いたのでしょうか・・・

でも、それは間違いなく―――・・・〕

 

 

紫:今・・・こうして目の前にしていると、ギルドでお別れしたはずなのに・・・

  なのに、私より早く、公主―――婀陀那様が、帰ってきておられるなんて・・・!

 

公:し―――紫苑・・・さん。

紫:(キッ!)どうしたのよ―――笑いなさいよ・・・。

  こんな・・・こんな、狂人じみたコトを言う私を!!

 

公:―――・・・・。

 

 

〔紫苑は―――自分の目の前にいる者が、自分の主ではないことなど、百をも承知していたのです。

 

それでは―――今・・・“公主様”の姿を模している者は、一体何者??

 

 

それは―――『禽』の中でも、一番に他人の“モノマネ”をするのが上手い・・・“カケス”こと、

ルリ=オクタ=ガートランド

だったのです。

 

 

かつて―――ルリは、自分の主であるタケルの命により、列強一の『軍事大国』であるヴェルノアに潜入をしていたのです。

 

初めは・・・・旅の劇団の一座に紛れ込み、いろんな役や、変わり身の速さ―――といった、自分の得意分野を見せることにより、

次第にその客足も、御芝居の内容から、彼女見たさに来るのが多くなってきていたのです。

 

そして、かれこれ任務について、一年半が経とうとした時・・・・どこから彼女の噂を聞きつけたのか、

この国―――ヴェルノアの施政者である、公主―――婀陀那が、お忍びで彼女の劇団の天幕にきたことにより、

ルリと・・・婀陀那の・・・運命の糸が紡ぎだされたのです。

 

 

時は・・・・そう――――現在より、二・三年前・・・・

 

ルリの噂を聞きつけて、彼女の一芸を見よう―――と、する婀陀那と、

思わぬ来客を前に、緊張をしてしまっているルリが――――・・・

(そして、婀陀那の傍らには、あの紫苑もいるようです・・・)〕

 

 

ル:―――――・・・。

婀:・・・・何をしておる、早うそなたの“芸”を、披露してくれぬか。

 

ル:(す・・・すごい存在感・・・ただ目の前にいるだけ―――のはずなのに・・・気押されているのが判る・・・

  い、今は、任務の事は忘れて・・・こっちの方に専念しなければ―――)

  で―――では、しがないヤクザ者のマネをやります・・・・。

『おっ―――ととと・・・・オイオイオイ、他人様にぶつかっといて、そりゃあねぇだろうよ―――』

  そ、そして・・・そのヤクザ者にぶつかった通行人―――

『ああっ―――こりゃ旦那・・・も、申し訳ねぇでございやす――――えっ。』

  そして、ヤクザ者―――

『チ―――ッチッチチ・・・ちげぇだろうよ、お前ェさん、曲がりなりにも他人様にぶつかっといて、

タダで済ませるつもり―――じゃあねぇだろ? んん??』

  そして、通行人―――と、たまたまそこを通りかかったお役人・・・

『え〜〜・・・えっと、それはそのぅ〜〜〜 あ!お役人様!!』

『ぅん?どうした――― なんだ、またお前か・・・

いい加減、弱い者を苛めるのを止めんと、しょっ引くぞ―――』

  そして、ヤクザ者―――・・・

『えっ??な、なに言ってやがんですか―――冗談ですよ、冗談〜〜・・・

あ、さて・・・じゃ、ちょッくらゴメンなすってよ〜〜――――』

 

  い・・・以上が、私の芸です。

 

 

紫:(ふぅん―――女性なのに、男の声色・・・しかも、三種類を使いこなす・・・とは―――)

婀:・・・・・。(まだ・・・まだじゃ―――)

 

 

〔そこには―――“若いながらも、擦れてドスのかかった声”と、“中高年で、弱々しくしゃがれた声”、そして、“同じ中高年ながらも、脂の乗った野太い声”

―――と、役柄に応じ、三種類の声を同時に操れる者がいたのです。

 

それを見聞するに及び―――(当時の)紫苑は、ルリの“芸”を認めざるを得ない・・・と、言ったところなのですが―――〕

 

 

ル:あ・・・あの、まだ何か?

 

婀:――――うむ、そなた・・・女であるのに、男の声を模する―――と、いうのは判った・・・

  じゃが・・・一つ、女のモノは出来ぬのか? そうじゃな―――例えば・・・“女の色香を武器にしている”といったような・・・

 

ル:“花魁”―――の、ことです・・・か?

婀:・・・・うむ。

 

ル:判りました・・・・では―――

『こぉれ兄ィさん・・・今夜、あちきと、しっ―――ぽりと濡れていって、おくんなまし・・・なぁ〜。』

 

紫:(こ――――今度のは、一転して妖艶な美女の・・・し、しかも・・・心なしか、顔の方もそう見えて―――)

 

ル:それでは、最後に一つ――――・・・・

『はぁ〜いルリちゃんでぇ〜〜ッす! 今回の、出し物は以上だけどぉ〜・・・

また、今度も見に着てよね?                   ちゃん

 

紫:(な―――なんと・・・幼子の声態まで模写できるの?!!

  し・・・しかも、甘ったるくて舌足らずな・・・だ、だけど―――では、婀陀那様はどうしてこの者を・・・??)

 

 

〔先程のは、男性の声での一芝居・・・でも、今度のは、匂い立つその女の色香で、総ての男性を骨抜き―――悩殺できてしまう者・・・の声と、

いつも、公演の終わり際に、客席に投げかける、萌え娘の声・・・

それを披露するに及び、七色―――いや、この大陸に住まう、総ての人種の声を模写できる、その畏るべき能力を目の前にした者達は・・・

 

いや、しかし―――〕

 

婀:フッ――――フフフフ――――!(見つけた・・・ようやく見つけたぞ―――!!)

 

 

〔そう・・・ルリの、この『他人の声態を模写できる』という技能を目の当たりにしたとき・・・

婀陀那は、驚くどころか、なにやらほくそ笑みだしたのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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