≪六節;公主、紫苑を将棋に誘(いざな)う≫
〔こうして―――アルル・ハイム城内には、まさに的を得た公主様の人選により、
同期生の諫めの言葉で、出仕してきた紫苑が―――〕
紫:諫議大夫・衛将軍・ヴァーユ=コーデリア、故あって公主様にお目通り願いたい―――
公:おお―――紫苑か、待ちかねたぞ。
紫:どうも・・・申し訳ございません。(ペコリ)
公主様に於かれましては、この愚臣を頼られているとの由、気がつきませんで・・・。
公:うむ―――まあ、そのことはよい。
時に、そなたに相談したき議があるのじゃが―――・・・
紫:はっ―――なんなりと・・・。
〔出仕してよりすぐの、公主様と紫苑とのやり取りに、
当時をしてそこに詰めていた官達は、羨ましくもあり、また、恨めしくもあったのです。
なぜならば、数日間出仕していないにもかかわらず、公主様自らが紫苑を出迎えに上がり・・・
また、彼女だけに相談を持ちかけてきたのだから。
しかし、それは無理らしからぬ事、それというのも、紫苑はそれだけ公主様と人間関係を築き上げており、
紫苑も・・・公主様もまた、お互いを頼っていたのだから。
でも、そうは言っても、“現在”の当人同士の関係は、果たして・・・・?〕
紫:(ふぅ・・・)随分とまた―――強引な手を使ってきたわね・・・。
公:フ・・・紅麗亜(クレア)のことか、まァそうは言うても、妾には拠り所となるのが、ないのではあるし・・・な。
紫:上手いこと逃げたわね―――。
まぁ、それはよしとして、半ば強引に私を出仕させるようにしたのは、どうしてなの。
公:・・・・うむ、そうじゃなぁ―――では、とりあえず将棋(チェス)でも指さぬか?
紫:(はぁ?!)しょ―――将棋・・・を?!で、ございますか??
し、しかし―――また、どうして・・・
公:なにをそう不思議がる事がある、紫苑―――
そなたと妾が、共に謀議を巡らせているときには、よくしていたことではないか。
紫:そ・・・・それは、まあ、確かに―――
でも、これといっても何もないこの時期に――――(はっ!)ま、まさ・・・・か?!
公:――――いかにも、“北”に不穏な動きあり・・・と、今朝方―――
紫:(“今朝方”・・・と、いうことは、あの『白雉』なる者が?!)
それに、“北”―――って・・・
公:・・・・はい、この国より、“北”に在る処―――と、いえば・・・
紫:(ハイネス・ブルグ!!)し、しかし――――なぜ?!
〔それこそは、まさに肚の探り合い、多少なりとも強引な手を使って、自分を出仕する気にさせた、
自分の主の姿を模する者に、敬服はしながらも、“これはどういった了見か―――”と、紫苑が問い質すと、
公主様を模している者は、よく二人が密議をする際に用いられていた、『将棋』でもしながらではどうか・・・と、したのです。
すると―――程無く、公主様の口から語られたのは・・・“北”の『情報』・・・であり、
自分たちの国の、頭上に位置する<列強>の意図が交錯する今だからこそ、自分は呼ばれたのだ―――
そう、紫苑は思わざるをえなかったのです。〕
To be continued・・・・