≪四節;公主様からの誘(いざな)い―――対局≫

 

 

〔でも、しかし―――〕

 

 

リ:そういえば紫苑殿は、わが国の関を抜けるのに、非常に急いておられたようで・・・

  また、その時には公主様の印綬を掲げておられた―――とか・・・?

 

紫:(来た―――)そ、その件は・・・

公:ナニ、そのことならた易いことよ、妾の急使である事を、暗に仄(ほの)めかすために、

  事前に紫苑に貸しておいたのじゃ。

 

リ:でっ―――では、公主様に於かれては、紫苑殿が居られなかったここ二年の間、公主の印綬を・・・

 

公:まァ―――そのことじゃがな・・・実は、手先の器用な者に精巧なレプリカを造らせておいたのよ。

  して・・・その間、バレずに済んだのは、不幸中の幸い――――と、言ったところかな。(コリコリ・・・)

 

リ:(こ―――!!・・・・この状況下で、鼻の頭を掻くクセ―――間違いない、紛れもなくこの方は・・・・)

 

 

〔少し―――自分に気恥ずかしい事があると、婀陀那は決まって鼻の頭を掻いていた・・・・

しかも、それが照れ隠しであるかのよう・・・・それも無意識のうちに。

 

そのクセは、婀陀那の事をよく知りえる紫苑でさえも気付かなかった事なのに、

それが他国のものであるリリアは、婀陀那の一挙一動を逐一もらすことなく研究していたので、

目の前にいるのが『紛れもなく本物』だ・・・と、思い込んでしまったようなのです。

 

 

そして―――この度の接見は、何のごたごたも起こることなく、無事終了――――と、そう思われたのですが・・・・

 

実は、『禽』の=カケス=であるルリが、“今朝方”に受けた報には、まだ続きが存在していたのです・・・。

では―――その事を紫苑に話さずにおいた、<衝撃の真実>とは・・・・?

 

それを含めて、今度は公主様からリリア―――へと、問い質しが始まろうとしたのです。〕

 

 

公:ところで―――リリア殿、折角来たのですから、妾と一局指してみませぬかな?

リ:えっ―――公主様直々に・・・私と―――で、ございますか??

  お・・・お相手して下さるなら、光栄なことです!!

 

公:(フフ―――・・・)では、先手は妾から・・・・(カツン―――☆)

リ:なるほど―――そう来られますか・・・では―――(カツン―――☆)

 

公:・・・・実はな、先ほどまで紫苑と指しておったのじゃが、相手になりませんでのう―――

  そのところへ、なんともよいお相手が見つかって、よかった―――・・・・。

 

リ:あら――――私も将棋は嗜(たしな)む程度ですけれど・・・やはり公主様には敵わないと思いますわ?

 

紫:―――――・・・・。(言ってくれるじゃないの・・・)

 

 

〔元来、将棋(チェス)とは、その性格上戦争のシュミレーションのようなもの・・・・

戦略・戦術で勝れる者が生き残る――――そういうシステムなのです。

 

それゆえに、『定石の法』などという“手法”も数多く見出され、列強と言わずに、各国々で当時は盛んに行われていたのです。

 

しかし―――それはあくまで“机上の理論”であり、実戦のモノとは程遠いだけなのですが・・・・

 

自分の主である“公主”の姿を模している者からの・・・あらぬ誘いを受けて、歓喜して止まないリリアと―――

また、その対局を見つめる、紫苑の胸中とはいかがなものであったろうか・・・・〕

 

 

リ:(本当・・・今日という日は善い事ずくめね♪

  私の疑問に思っていることで来た事だし・・・・それに、何よりも、今、私・・・あの公主様のお誘いで、

  あの方と対局しているのだわ??!

 

  それに、このことをあの二人が知ったら、どんなにか悔しがるでしょうね・・・・

  嗚呼―――夢なら醒めないで頂戴・・・・

 

紫:(はぁ〜〜〜・・・・全く、ルリったら何を考えているのやら―――

  私に掛けられた嫌疑が晴れたのなら、さっさとこの娘を帰してやればいいのに・・・・

 

  それを―――なんだって、“将棋を一局”・・・・だ、なんて――――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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