≪五節;納得のいかぬ“引き分け”≫
〔人それぞれには、また違った思惑もある。
それは、今のこの二人が抱いているのと、同じように・・・。
では―――?
それでは、公主・婀陀那=ルリの思惑とは、一体どこにあったというのでしょうか・・・
それが、如実に現れてきたのは、この一局の“終盤”に・・・だったのです―――〕
公:これで・・・(カツンッ―――☆)いかがかな。
紫:(こっ―――・・・これは??!)
リ:メ・・・・メイティング・マテリアル――――
〔『メイティング・マテリアル』―――互いに“詰める”要素・材料、共に無くなってしまったがための・・・<引き分け>
でも・・・しかし―――??〕
公:いや・・・中々にお強いですなぁ、リリア殿は―――
妾をして、引き分けに――――
リ:こ・・・っ、これは何かの間違いです!!
『セミ・マスター』の称号をお持ちである公主様が・・・俄(にわ)か棋士に等しい、私相手に<引き分け>などと!!
公:ほう―――得心が行かぬ・・・と、では仕方がない、もう一局いかがですかな?
リ:もちろんですとも―――!
〔有段者が格下を相手に、こうまで苦戦をするはずなどありえなかった―――
しかも、そのお相手は、数年来より自分が慕い、尊敬し続けている方であるなら、尚更に・・・
それであるがゆえに、“ひょっとして手加減されているのでは・・・?”と、そう思ったリリアは、
またも公主様の一言に乗せられる形で、もう一局打ってしまったのです。
ですが――――その結果は・・・・〕
紫:(ま・・・また??)
リ:メイティング――――マテリアル・・・
〔そう―――またも結果は、同じく『メイティング・マテリアル』・・・・。
ですが―――こうもタイミングよく、同じ結果が続くものなのでしょうか。
その疑問を、包み隠すことなく、ぶつけてくるリリア―――〕
リ:ナゼ――――ナゼなのですか・・・公主様!!
何かご不満があるのでしたら、はっきりと申し上げて下さい!!
公:・・・・はて、なんの事やら――――
言いがかりも甚だしいですのぅ―――リリア=クレシェント=メリアドール殿。
そなた―――よもや妾が、わざとこのような結果になるように指していた・・・と、そうお思いであるのか―――?!
リ:だって―――・・・そうじゃないですか・・・
あなた様と私とでは、いうなれば“有段者と初心者の争い”・・・それが、どうしてこのような奇蹟の結果になるとでも―――?!!違うのですか??
公:・・・これは異な事を―――
妾は、決して『手加減』したつもりも、『意図』したつもりも―――そのどちらでもないのじゃが・・・・?
〔リリアは―――そこで『手加減』と、なんらかの『意図』がそこにはあった―――と、露呈して見せた・・・
すると、すぐさま公主様は、“そんなものは無い―――”と、反論しておいたのです。
しかし―――ここで・・・今までの公主様とルリの対局を、その傍らで固唾を呑んで、見守るようにして見ていた紫苑は・・・
今の・・・公主様=ルリの言葉の中に、明らかな“偽り”が混じっている事を、ひしと感じていたのです。
なぜならば・・・今の二局とも、以前に紫苑が、公主=婀陀那に して やられた『棋譜』そのものだったのだから―――・・・〕
紫:(ま・・・間違いない、このニムゾインディアン定跡といい・・・
先ほどの、終盤になって、互いに傷がつかないように指した誤手といい・・・
私のときと、全く同じ手を――――??!)