≪六節;“真剣”勝負≫
〔しかし―――相手である、若いリリアには、そのような機微など分かろうはずもなく・・・
ついには、頭に血が上ってしまった状態で、こんな事を口走ってしまったのです。〕
リ:――――ならば・・・こちらではどうですか。(チャ・・・スル〜〜―――)
公:ほほぅ―――『真剣』でのお相手ですか・・・
リ:いかにも―――これではさすがのあなた様も、『意図的』だとか『手加減』だとかはできぬはず!!
公:(フッ・・・)ヤレヤレ―――困りましたのぅ・・・。
血気にはやる・・・とは、若気の至りとでも申そうか―――
紫:お控えなさい―――!『特使』リリア殿!!
ここは、あなたの自国にはいうに及ばず、他国の城の殿中なのですぞ!!
リ:・・・分かっています―――ですが、私には、この将棋が欺瞞なモノに満ちた気がしてなりません!
そこのところは、どうお考えなのですか―――お答えください・・・。
公:・・・・然様か―――
では・・・そなたは、異国の地にて命を果つるを覚悟で、申しておる・・・と、そういうことなのじゃな。
よろしい―――・・・それほどの覚悟なれば、妾とて相手をしてやらぬワケにはいくまいて―――
紫:こ・・・公主・・・婀陀那様―――??!い、一体ナニをお考えで―――・・・
ま、曲がりなりにも、リリア殿は特使としてわが国に来ているのですよ??
そ、それを―――・・・
公:黙れいっ―――紫苑!!
一国の将が、“将”のままで果つると申しておるのじゃ・・・邪魔立てをいたすではないわっ―――!!
〔“終わった―――総て・・・何もかも・・・が――――”この時、紫苑はそう思わざるを得なかったことでしょう・・・。
事実、気まぐれ同然で指した二局の所為で、『真剣』でのやり取りへと発展をし、
これから二国間を、争いの渦中へとまきこんでしまうのだ・・・と―――
だとすると、これがルリの思惑??しかも、『列強』の一つと事を構えて、果たして“勝算”はありえるのか??
その・・・紫苑の想いとは裏腹に、剣戟の火花を散らしだした両雄は――――〕
リ:はぁぁああ――――ッ!!
公:てぇゃぁあああ――――ッ!!
ガ☆ カキィ〜〜―――ン☆
リ:(さ・・・さすがは、練達した武芸―――私程度のモノでは、到底刃が立たない・・・・
けれど・・・侮辱は許されないっ―――!!)
やぁああ――――っ!!
公:なんの―――!!
ガ・ガギ――――・・・
ググ・・・・ ググ・・・・
〔もはや、事の成り行きを、己れの両の手の指の間(はざま)で見ているしかない紫苑・・・。
しかし、それでも二度、三度と交錯していく剣撃と火花―――
すると、それを見つめていくうちに、紫苑の頭の中には、こんな事が過ぎり始めたのです。〕
紫:(な―――なんなの?この・・・ルリの剣の軌跡・・・ま、まるで婀陀那様のそれと同じ―――
(はっ!!)そ・・・そうか―――だから・・・二年前のあの時に、『絶対不可能』だと思われていた、
“影武者”の事を承諾したんだ―――!!)
〔紫苑は・・・ルリのその剣の軌跡を見るなり、婀陀那と同じだ・・・と、言ったのです。
そう―――それこそが、ルリの持ちうるべき最大の秘儀・・・『トレス』。
一度見たモノの、総てのそれを確実に追っていくことの出来る、この技能こそは、
その総てにおいて『上級者』のモノだったならば、まさに“無敵”そのもの・・・なのですが、
逆に、それが『素人』のモノだったら―――?
それは云わぬが利・・・と、言ったところでしょうか。〕