<第二十七章;交わる二つの星>
≪一節;失敗に終わった工作≫
〔自国より南にある疑惑の国で、自分の胸の内にあった疑念を晴らせたものの、
その去り際に、それは軽率そのものであった事を、思い知らされたリリア。
自国、ハイネス・ブルグでは、“雪月花の三将”のうちの、月の宿将として持て囃されながらも、
以前から懇意に思っていた女(ひと)の前では、裸同然であった事を思い知らされた彼女は、
半ば、ほうほうの体(てい)で自国へと辿り着いたのです。
しかも―――同じく三将の一人、“雪”のイセリアの謀議までも、その一身に負わせられることになろうとは・・・
そして、ここは、両国の国境付近の砦―――カトラス・・・〕
兵:・・・・あっ!
お――――い、リリア様がご帰還なされたぞ〜〜!
イ:それで・・・様子は?
兵:はぁ・・・それが―――少しばかりしょんぼりしているようで・・・
イ:・・・・。(しくじったようね―――)
まあいい、それでは徐々にここから撤収するとしましょうか。
〔イセリアも、実のところは、その疑惑は五分五分でした。
もし・・・リリアが見てきた彼女が本物ならば、それでよし―――以前のままのように国交を結ぶまで、
けれど、贋物だった場合には―――? ヴェルノアを獲るのは、今をおいてほかはない・・・と、していたのです。
でも、リリアを特使として派遣した結果を見てみると・・・悪い結果―――
そう、つまり現在ある、ヴェルノア公主・婀陀那は、紛れもない本物で、しかも自分の謀略をも見透かされた上で、
ほうほうのていで返されてきた事を、早々と察知したのです。
そして―――砦内で話し合う“雪”と“月”は・・・〕
リ:(キッ―――)イセリア・・・これはどういう事?!!
この私を利用し・・・剰(あまつさ)え、かの国を獲ろう・・・などと―――
イ:・・・あら――――でも、弱者が強者に喰われるのは、この世の倣いよ・・・
それを知らないあなたでもないでしょうに―――
リ:・・・けど、そのお蔭で、私は恥の上塗りをさせられて来たのよ―――!!
イ:それはお気の毒・・・としか言い様がないわね。
けれど、今回の一件のお蔭で、いらぬ心配事をしなくてもいいようになった事は、確かだわ。
リ;えっ―――いらぬ・・・心配事?
イ:・・・そうよ、今回は―――まあ、あの方が本物だった事が分かったから、それでよしとしましょう。
それで国交も通常通り、かの国に不愉快な思いをさせてしまったのなら、
私からちゃんと詫び状を送る事で、その事に対しての溜飲を下げてもらいましょう。
リ:――――・・・・。(え・・・・え〜っと??)
イ:まだ分からない・・・?
今回の事がなければ、私たちは誰とも分からない者に対し、頭を下げていかなくちゃならなかったのよ?
リ:あ―――・・・・・っ。
イ:それに・・・永年、公主様の影を慕い続けていたあなたには、いい経験なったでしょうしね。
今回のところは、差し引き零・・・と、言うところかしら。
リ:ご・・・ゴメン――――なさい。
〔ここ最近で広まっているある“噂”――――
しかし、噂は、所詮噂でしかならず、真実はそれに勝るものである・・・
でも、ここでその“噂”だけを信じ、ヴェルノアに攻め入ったならば―――??
しかも、ヴェルノアの公主は、ここはイネス・ブルグでも『兵法の大家』として知られており、
あたら噂話を信じて攻め入った折、大惨敗を喫し、それを理由に意趣返しをされたなら・・・
でも―――もし、その“噂”が、実は“真実”で、現在の、ヴェルノアの公主が、全く誰とも分からない存在(もの)だったなら・・・?
その時こそは、この軍事大国を掌握できうる絶好の機会であり、この千載一遇の好機をみすみす見逃す手はない・・・
このように、三将の筆頭でも、その胸中には揺らぎがあったのです。〕