≪三節;太公望≫

 

〜ちゃぷん〜

 

 

カ:―――――・・・・。

 

  (クイッ―――)よっ―――・・・・と、ああ〜〜・・・ヤレヤレ・・・また逃げられたか――――

  どうもいかんな、魚を釣る・・・と、いうのは難しい、これが―――国や人なら、簡単に釣り上げられるのに・・・

 

  それ――――っ・・・・と、

 

 

〔総てにおいて、万能な彼ほどの者でも、実は魚釣りは不得手・・・?

――――などと、つい思いたくもなるのですが・・・よく見ると、彼の釣竿には、“糸”や“針”、“錘”や“浮き”などはついているのに・・・

肝心の、魚を釣るための“餌”はついていなかったのです。

 

 

すると―――この釣り人に、静かに・・・そっ―――と、近付く者ありき・・・

その事を、知ってか知らずか―――カインは、再び、餌のついていない針を、水面へと投げ入れたのです・・・。

 

そこで気になるのは、餌のついていない針で、魚釣りをしているカインに近付いてきた“者”―――なのですが・・・

 

その時のその者の出で立ちは、七尺に余るその長身を、西国特有の着物で身を包み、

頭上には、その表情が、垣間見れなくなるほど目深に被った菅笠―――・・・

(しかし、その狭間より、覗いて見える琥珀色の眸が、実に印象的ではあったようです。)

 

そして―――・・・腰には、何かの“棒”のようなものが、差してあったようです。〕

 

 

カ:――――――・・・・・。

武:――――――・・・・・。

 

 

〔しかし・・・奇妙な事といえば、彼らの間には、会話らしきものは一切発生しませんでした・・・。

 

カインは―――大物を狙うべく、(?)水面を見つめ――――・・・

また、その巨漢も、同じく水面を見続けていたのです。

 

そう―――彼らは、飽くことなく、何時間も・・・数時間も・・・そのままの状態で、居続けたのです。

 

 

それよりも――― 一方のこちら、自邸で兄の帰りを待ちわびているセシルは、

朝方に釣りに出かけ、それが昼と関になっても帰宅せず・・・もうすぐ日が傾きかけてきた頃合になって、

ようやくカインを迎えに行く決心をしたのです。

 

 

そして―――セシルが、自分の兄を、その川に迎えに行った時・・・

当然の如く、兄の背後に立ちすくしている、この巨漢の姿を、その碧の双眸に捉えていたのです。

 

それを見たセシルは――――〕

 

 

セ:(あっ―――・・・あの人は―――!)

 

 

〔過去に、数回しか会っていなくとも、その印象の強さゆえに、忘れようはずもなかった・・・・。

その巨躯を見る限りでは、かなりの武辺を修めているのは分かるにしても、一番に目を見張るべきは、

自分の兄にも匹敵する、博学と見識の確かさを持ち合わせているのを知り、数少ない機会を捉えては、

その彼に、『道』の何たるか―――の教えを乞うていた・・・それであるがゆえに、彼の中字(なかあざな)を呼び、

一目散に駆け寄るセシル―――・・・〕

 

 

セ:先生―――典厩(てんきゅう)先生――――!!

  お、お待ちしておりました―――!!

 

 

〔そう―――その巨漢こそ、誰あろう・・・タケル=典厩=シノーラ・・・その人だったのです。

 

すると―――釣り人・カインからは・・・〕

 

 

カ:(ふふ―――・・・)何者か・・・私の背後にいるなぁ〜とは思っていたが・・・

  やはりそこもとでありましたか―――。

 

タ:(フッ―――)これは・・・お辛いお言葉を―――

  先生に於かれては、ワシが居る事などは、随分と先に存じていたはずでしょうに・・・。

 

  それに、ステラ殿におかれては、大物を狙っている最中――――と、あっては、みだりに周囲(まわ)りを騒がせるのも、利にあらぬコト・・・。

 

カ:ハッハッハハ―――餌のない釣り針をして、大物狙いとは・・・いってくれるじゃあないですか―――ステラ・バスター・・・殿?

 

―――はっはっは―――

 

〔カインの中字は<ステラ>であり・・・タケルも、その異名には、その<ステラ>に“対する”という・・・『ステラ・バスター』とも呼ばれていたのです。

 

その事に、面映くもあり、またおかしくも思った両雄は、ともに破顔一笑したのでした。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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