≪六節;『信書』の“差出人”≫
〔そして、自分の妹の“失敗作”を手直しすべく、カインが台所に入ったところ―――・・・〕
タ:――――・・・・セシル殿。
実は、ワシがこの国に来たのには、ある“理由”があるのです・・・。
セ:(ドキ―――)は・・・はぁ――――・・・
タ:それは・・・あなたの兄の筆跡を真似て書かれた信書・・・
『至急お会いして相談したき候―――』
を受けてなのです。
セ:そ・・・それで―――?
タ:・・・・今まで、ワシが窺わせて貰ったところ、そのような素振りは“微”たりともなかった・・・
そこで、わしは一つの仮説を立ててみたのです。
セ:―――・・・。(ゴク・・・)
タ:あの“信書”―――・・・実は、あなたが書かれたもので、真(まこと)に相談したき儀があるのは、
あなたではなかったか―――・・・と。
セ:(ふぅ・・・)そうですか―――やはり、判ってしまいましたか・・・。
なるべく、兄の筆跡を真似ては見たのですが・・・。
でも―――そんなものでも、来て下さったのは本当にありがたく思っている次第です。
タ:(ふむ・・・)それで―――?
セ:はい・・・・。
実のところ――――兄は・・・今の処遇をどうおもっているのか――――と・・・
タ:(ふむう・・・)確かに、彼の器量はこの国の範疇を超えるもの・・・・
それゆえに、他国に出奔の疑いあり―――とは、ワシの耳にも、つとに入っていた事・・・。
ですが、そのような不当な嫌疑をかけられ、果たして人間は、平然として居れるものでしょうや―――?!
セシル殿・・・あなたならどうです?
セ:わ―――私は・・・
私ならば・・・おそらくそれに絶えられないと思います・・・。
確かに、幼い頃は『神童』と呼ばれながらも、兄の考えは、私たちの頭ではとても及ぶべきものではなかったのです・・・。
強いては、それが“元老”たちからしてみれば、『若輩者』だとか、『小癪な若僧』だとかに思われたに相違ないのです。
それに―――そんな風潮は、私にさえ ひし と感じられるものがありました・・・況してや兄は――――・・・
私は、正直、兄の事が残念でなりません・・・。
本来なら、一国の宰相などの地位をして、開花されるべき才がありながら、
今ではこのようなところで、その才を食いつぶすしか道は残されていないのでしょうか――――
時代は・・・どうして兄を―――こんなにも早く生まれさせてしまったのでしょうか――――!!?
〔カインがその部屋を出てすぐに、タケルはこの国に訪れた本当の理由を、セシルに話してみたのです。
そして、それは間違いなく―――セシルが、兄のためを思って、唯一その心情が分かるのではないかという存在=タケルを招き入れ、
事の成り行きを収めようとしたのです。〕