≪九節;三顧≫
〔それはさておいて―――話しの場を、フ国ガク州・・・その国境の近くの砦、グランデルにおいて・・・。〕
ア:ナニ―――? それは本当か?!
兵:はい―――あの辺りの農民から聞くのには、それらしい人物が二日前よりいると・・・・
ア:そうか―――分かった、有り難う。
〔州公・アヱカは、砦の守兵の一人より、以前から会おうとしている人物が、かの草庵にいるとの報せを受け、
逸る心を抑えながらも・・・しかし、機を逃してはならないと思い、早速会いに行く準備をしたのです。
そして、そこへはキリエも一緒に・・・〕
キ:しかし―――州公様、また今回も事前に言って置かれなくて、大丈夫なのでしょうか??
ア:ああ・・・その事は、私もちょっと心配しているんだ。
でも、以前にも書置きは残してあることだしね、彼も・・・判ってくれると・・・そう思う。
キ:―――ですか・・・そうですよね。
〔今回で三度目・・・以前の二回は、その庵の主人が旅に出てしまっていて、惜しい思いもしたのですが・・・
今、自分の持っている心情を、紙片に認めておいていたので、そこのところは分かってもらえるだろう―――と、踏んでいたのです。
そして―――件の庵についてからは・・・〕
ア:―――――お邪魔いたします・・・。
ラ:あっ―――州公のお姉ちゃん! いらっしゃい―――
ア:どうも、ラクシュミ君。
ところで・・・庵の先生が在庵だと聞いて、来てみたのですけれど―――・・・・
ラ:えっ―――? 先生なら、まだ旅先からは帰っていないよ??
ア:ええっ?で・・・でも、わたくしは、二日前よりそれらしい男の人がいる―――と・・・
ラ:え・・・・っ、二日前――――って・・・
キ:それより・・・ボク? あなたのお姉さんは――――
ラ:ああ―――姉ちゃんなら、御用で出かけていないんです。
キ:――――そう・・・
〔すっかり顔馴染みとなった、庵の童子・ラクシュミに、この庵の主人は帰ってきているか・・・と、訪ねると、
思いもしない答え―――“未だ帰らず”・・・だったのです。
では―――だとすると、この度アヱカの耳に入ったあの噂は、ガセ・・・?
――――とも、思えなくもなかったのですが・・・
でも、それは強ち間違いではなかったのです。
そう―――そこには、確かに“ある男性”がいたのですから・・・。
では、その“男性”とは――――?〕