<第二十八章;三様>
≪一節;出会いと、別離れと―――≫
〔三度、その庵に足を向かわせながらも、意中の人物には会えず、
でも、しかし―――それに変わる別の収穫、ラー・ジャ国の高官ノブシゲなる人物と見(まみ)え、
二・三、言葉を交わして自治領に戻る、州公・アヱカとその供キリエ・・・
その馬車の中にて―――〕
ア:・・・・現在の世も、そう棄てたものではないな―――・・・
キ:―――どうしたのですか、州公様。
突然にそんな事を言い置かれて・・・
ア:うん―――いや・・・かの“典厩”という人物といい、彼の親友といっていたあの“ノブシゲ”なる人物といい・・・
現在(いま)の世にも、まだまだああいった逸材がいるものだ・・・と、思ってね、
少し嬉しくなってきちゃって―――
キ:(フフッ―――)そうですね、出来れば主上の手元に、置いておかれたい―――と・・・
ア:お・・・・おい、誰もそんな―――
キ:言っていなくても、目がそう言っていますよ、主上。
ア:(ぐぅっ・・・)悪いヤツだなぁ―――キリエは・・・。
今の私は、そんな立場にはないのだから、そんな事を言ってしまっては、多大な誤解を招いてしまうじゃあないか。
ア:<でも―――あのような方が、優れた統治者の下にまだまだいましたなら、
世もこんなには乱れたりはしなかったでしょうに―――・・・。>
女:ア・・・アヱカまで??! 不謹慎だぞ?もう―――
〔意中の人物に会えなかった――――だから、がっかりしてしょげているものと思いきや、
意外にも、出来た人物もいたものだ・・・と、感心をし、改めて二人の事を評価し始めていたのです。
それはそれとして――――この庵の主であるタケルは、
ハイネス・ブルグのカインの家を出立し、その足をフ国へと向かわせていたのです。
そして―――これは、その彼が去った後の、出来事・・・・・〕
カ:ちょっと―――出てくるよ・・・
セ:兄さん―――早く、帰ってきて下さいね。
カ:―――――・・・・ああ。
セ:(え・・・?)に、兄さん―――?!
〔また普段通り、カインは河へ魚釣りに・・・でも、その出立の段になって、
彼はとても気になる言い回しをしたのです。
いつもは――――自分から話しかけても、返事など貰えずに、さっさと釣り場まで行くというのに・・・
今日のこの日は、一体どういった事からか、返事をもらえた上に、玄関口で一寸(ちょっと)立ち止まり、
こちらを振り向きザマに、愛想の良い笑いまで浮かべたというから・・・。
普通一般ならば、至極当然なこの動作・・・・
でも兄は、自分から職を辞したとき以来、他人との付き合いもなくなってしまい・・・・
それゆえに、あらぬ疑いがヒレをつけて泳ぎ回っていたのではありますが・・・・
それが、実の妹であるセシルまでも―――
なのに、今日に限って、二度と浮かぶ事のないと思われていた笑顔が――――??
そのことには・・・一抹の不安が過ぎりもするセシルなのですが、
今は、自分もハイネス・ブルグを“武”で支える『三将』の一人、
故にそんな些事などに、現(うつつ)をぬかしている場合ではないのです。〕