≪四節;約束されていた来訪者≫
〔そこで―――この時、援軍を待ち望みたるヒヅメたちに、
最も効果的だと思われる計略を練りこんでいたところに・・・〕
―――コ・コン―――☆
兵:失礼いたします―――
ヨ:・・・・どうした―――今、忙しいから、あとにしてくれんか。
兵:いえ・・・それが―――
誰:ふぅん―――忙しい・・・・ねぇ〜。
私には、とてもそういう風には見えないが―――・・・?
ヨ:(ぅん?)おお―――誰かと思えば、よく来てくれたな、カイン殿―――
〔なんと―――敵方であるはずのカ・ルマの砦に現れたのは、ハイネス・ブルグのカインだったのです。
でも・・・第一の疑問は、どうして彼がここに―――?
その理由は簡単、そう・・・タケルが訪れた事が、一つの契機だったのです。
例え・・・異国なれど、同じような境遇にあった事のある彼に、相談を受けてもらった事で、
最後の迷いの靄(もや)というべきモノが吹っ切れ―――その翌日には、いつも通り魚釣りに行くフリをしながら、
以前より招きを受けていた漆黒の国へと走っていったのです。〕
カ:ところで―――カ・ルマ一のヴェネフィックであるお前さんが、何をそんなに悩んでいるのかね?
ヨ:うん―――?ああ・・・実はな、
これをどのように有効利用したほうが良いか、思案していたのだよ。
カ:ほう―――手紙か・・・どれ―――
ヨ:まあ・・・君がくるまでに、いくつか考えたのだが・・・どうも今ひとつ物足りなくて・・・ね。
カ:ふぅむ―――援軍の要請状・・・・ねぇ。
どうだろう、ここは一つこれに似せたモノを、もう一つ作ってみては・・・
ヨ:ああ、それは一応私のほうでも考えたが、生来悪筆な性質でね。
そんな女如きのような、なよなよした字体は書けないのだよ。
カ:(・・・・フン―――)ならば仕方がない・・・不肖の私が代筆で書いてみよう。
ヨ:ほお・・・やっていただけるか、それはありがたい。
〔そして―――そこでは、驚くべき事に、積極的にカ・ルマの軍略に手を貸してやるカインの姿が・・・
しかも、ヒヅメのいるクー・ナの前線基地『ホウキ砦』を、力技で攻略しようとはせずに、
その砦から出てきた伝令の持っていた密書と、寸分違わないモノをして、これに当たるようなのです。〕
カ:―――ところで・・・この辺りの地理に詳しい者はおらんかね?
ヨ:ああ―――それならこの私が・・・なに、心配などいらんよ、大体の事はここ(頭の中)に入っている・・・。
カ:ならば――――あの砦は?
ヨ:ああ・・・アレこそが、これから攻むるべき『ホウキ』だ。
カ:そうか・・・では、ここ『パロア』より程近く、『ホウキ』よりもそう遠くない、クー・ナの砦は・・・?
ヨ:フうむ・・・・地理的からすると『イナバ』だが、戦略的に考慮すると『サヌキ』かな・・・。
カ:・・・・では、その双方を頂こう――――
ヨ:双方とは―――? また大きく出たな。
カ:いや・・・・正確に言うと三つ。
『イナバ』に『サヌキ』に『ホウキ』・・・・それと共に、援護に駆けつけた将も、この私が貰い受ける・・・。
ヨ:(なに?)フフフ―――・・・カイン殿、それは私をからかっているのか?
カ:――――どうしてそう思うね?
ヨ:それはそうだろう・・・拠点の砦を三つも―――剰(あまつさ)えに、救援に駆けつけた将までも・・・だと?
もし、これがからかっていないにしても、口か憚(はばか)り過ぎやしないか??
カ:・・・・それを難なくやってのけるのが軍師の務め―――
また、それをさせるために、私を誘い招いたのじゃあないのかね?
それに―――私はこの国では新参者だ、誰一人としてお味方はいない・・・
だからここでクー・ナの将を捕らえて、私の手元に置いておくのにも悪くはない・・・・だろう?
ヨ:(フ・ン―――)まァ、好きにしたまえ・・・。
この一件は、君がここに来てからの初仕事なのだから・・・な。
それに―――私にはまだまだやらねばならない事が多い・・・付き合ってられんよ。
〔この時―――カ・ルマ側の砦に現れたカインが、即座に描いて見せた戦術とは、次の通りだったのです。
まづは―――ヒヅメの書いた密書を装い、クー・ナ軍本体の要請をし、それを『イナバ』『サヌキ』に分散させる。
(無論、クー・ナ軍本体がこの地に着くまでに、この二つの砦を陥としておくのは大前提)
そこへニセの密書で釣られてきた将共々、彼の手中に収め、その後に『ホウキ』に篭るヒヅメを攻略する―――
そういう段取りだったのです。
でも・・・ヨミは、大言壮語を吐くカインが気に入らなかったらしく、
歓迎はしたものの、その戦略に手を貸そうとはしなかったのです。〕