≪六節;一芝居≫
〔あらん限りの責めを受け、床にうつ伏した婀陀那に、『次回は今以上のをして、手厚い歓迎をしてやる・・・。』
―――と、半ばいやらしい笑みを浮かべ、その女はその場から去ったのでした。
ところで・・・婀陀那は、本当に今までの“自分”を喪失してしまったのでしょうか・・・〕
婀:―――――・・・。(ス・・・)
(うぅっ・・・く、あの悪趣味な女めが・・・妾が記憶喪失しておるのをいい事に、散々に弄んでくれたようじゃな、
そのかお―――絶対に忘れておくまいぞ!!)
〔なんと―――・・・やはりと申しましょうか、あの、まるで、世間を余り知らないような娘のような対応の仕様の裏には、
彼女なりの処世術があったようです。
でも・・・本来の自分とは正反対の人格をどうして―――・・・?〕
婀:((フ・・・)・・・に、しても、あの半年の間、ルリより教わった事が、こうも早くに役立つことになるとは―――な・・・。
アレには、感謝してもしきれぬくらいじゃて―――)
〔そう・・・あの時―――ヨキや、拷問手を前にして展開していた婀陀那の別人格は、
その元を質せば、自分がヴェルノアを出奔する前に、自分の臣下に迎え入れた、
『禽』の一員―――ルリの助言、『もし、あなた様が、囚われの身になった場合、一時的に“ご自分”を捨てる事をお勧めしますよ―――』
を、受けての事だったのです。
でも、これを言われた当時は、『自分を棄てる』という意味がよく分からなかったのですが―――・・・
丁度あの時・・・そう―――あの『陥穽』に落ち、自分が未だに生きている・・・と、
そう自覚した瞬間―――そして、魔将・フォルネウスの前に引き出されたときに、口をついて出たものが、
皮肉にも、あのアヱカの口調を真似たものだったのです。
しかし―――この事が、図らずも、婀陀那にとって後の禍いの元となってしまおうとは・・・〕