<第二十九章;同姿異哭>
≪一節;一つの信書と使者≫
〔三度目の訪問も、件の人物に会えず、全くの徒労に終わってしまっ事に、少々落胆せざるをえなかった、ガク州公・アヱカ。
しかし、やはりそれは自分の仕様に問題があったものと思い、ここにきて改めての在庵を問う旨の信書を認(したた)めたのです。〕
ア:(スラスラスラ〜〜―――)・・・・これでよし。
コみゅ、キリエを呼んできてくれないか。
コ:はいっ―――ですみゅ。
乃:ねぇちゃま・・・がんばってきて―――
〔そして―――今回自分が書いた内容がおかしくないか、ガク州司馬であるキリエに添削するよう求めたようです。〕
キ:―――お呼びでしょうか、陛下・・・。
ア:これ―――今はそんな呼び方は妥当ではない。
まあ、それはそれとして―――この度事前に会う約束を認めてみたのだが・・・どんなもんだろう。
キ:それでは、拝見いたします。
〔その文面には、これまで三度も会えなかった事から来る恨み言などではなく・・・
一度でもいい――― 一目会って、そこから感じうる何かを感じ取ってもらって、彼の者でさえよければ助力になってもらえないか・・・
と、いう、いわば嘆願めいた事が綴られていたのです。〕
キ:(ふぅむ・・・)まあ・・・確かにおっしゃりたい事は分かるのですが―――
これではさすがにご自分を卑下しすぎではありませんか?
ア:いや・・・彼の―――典厩と呼ばれる者のご友人、ノブシゲ殿がいいおかれたように、
幼少の頃より誉れの高かった人物だ、そのくらいの臣下を迎え入れるの禮はとっておいたほうが、私はいいと思う・・・。
それにね―――
キ:はぁ―――・・・はあ??
ア:この文章を起草したのは、他でもないアヱカ自身なんだ。
私は、その代筆をしたに過ぎない。
キ:そうでしたか―――分かりました、それでは早速、使いの者にやらせましょう。
ア:うん、そうしてくれ―――
ああ・・・あとそれから――――
キ:はい、何か―――
ア:その信書を使いの者に渡した後、お前には至急赴いてもらいたい処があるんだ。
キ:はい、何なりと―――
〔こうして―――ひとまづ、在庵を問う信書は、件の庵へと出されたのですが・・・
その後にアヱカは、キリエをまた別の場所に使いにやらせるようです。
それは一体どこなのでしょう――――〕