≪五節;四顧≫

 

レ:この先の書斎にて、あなた様を待っているお方が居ります―――

 

ア:そ、そうなのですか―――(この・・・先に―――)

  で、では――――・・・

 

レ:はい―――ごゆっくりと・・・

 

キ:(・・・・何か、妙に余所余所しい―――)

 

ア:キリエさん、参りましょう。

キ:あ、は・・・はい―――

 

 

〔確かに―――その女性・・・レイカも、言葉の中で、『あなた(アヱカ)を待っている方がいる』と言い、

ユミエも、『ある方が庵に来る』と言っていたのです―――

 

けれど、決してそこには、『典厩』という人物の名は、一度たりとも使われていないことを―――・・・

この二人は、一体どれだけ知りえていた事でしょうか。

 

それでもアヱカは、意中の人物に会えると言う喜びに、未だ疑ってかかっているキリエをせかして、

かの書斎に足を運んだのです。

 

すると―――そこには、紛れもなく、“ある男性”がいたのです・・・〕

 

 

男:・・・・。

 

ア:(あっ―――あの方は・・・?)

キ:(あの人物―――が??)

 

男:(ぅん―――?)ああ・・・これは―――

  あなた様が、我が兄にかねがねお会いしたいと言われていた、フ国はガク州公・アヱカ様でいらっしゃるのですね。

 

ア:(えっ―――)えっ??い・・・今なんと―――?!

キ:我が・・・“兄”? すると、あなたは―――

 

チ:(チカラ=左近=シノーラ;『十八章』に既出した、ラー・ジャの要人。タケルは実の兄。)

  はい―――“典厩”とは我が兄、タケル=典厩=シノーラの事を指します。

  手前は、その弟のチカラ=左近=シノーラです。

 

ア:て・・・典厩様では・・・ない??

キ:謀(たばか)られた―――!?

 

チ:いえ―――それは違います。

  ただ、手前は『(兄の)庵に度々足を運ばれている御仁がおられる。』

  ―――と、ある方から伺いまして・・・そこで、この度来庵を兼ねてお会いしてみたく、至急ユミエさんに渉り役を付けてもらったのです。

 

キ:・・・・その、“ある方”とは、よもや ノブシゲ といわれた御仁でしょうか。

チ:―――よく存じていましたね・・・。

  いかにも、そうです、若年寄様からそうご助言いただいたので、我が兄の“智”をお求めになる方がいかほどの人物か・・・そう思いまして、

  それで気になり『会ってみたい』としたのですが・・・どうやら結果、騙してしまったみたいですね。

 

ア:―――いや、どうやら私のほうでも、件の人物と会える事の嬉しさに、少々浮き足立っていたようです・・・。

  そうですか・・・あなた様が、典厩と呼ばれている御仁の弟君・・・色々お騒がせして申し訳ない―――

 

 

〔でも・・・そこにいたのは、件の『典厩』と呼ばれた人物ではなく、彼の実弟のチカラだったのです。

 

では―――なぜ彼がここに・・・?

 

それは・・・多分に漏れず、稀代の逸材と云われていた自分の兄に会う為に、

度々兄の庵に足を運んでいる・・・と、いう、他国の州公の事が気になったから―――

 

でも、今は自分もラー・ジャでは“大目付”という要職についているが故に、

件の州公を構えさせては―――と、思い、あえて非公式で・・・しかも、兄の手足である『禽』を使って、アヱカと会おうとしていたのです。

 

 

しかし、それでは―――そう、折角兄に会いに来ているというアヱカを騙してしまっている事にも他ならず、

速やかに陳謝したところ、漏れなくアヱカの方からも、余所から貴国を騒がせて申し訳ない―――との由の答えが返ってきたのです。

 

この応対振りを受けたチカラは―――〕

 

 

チ:(成る程・・・若年寄様の云われの通りだ―――

  それに、この方の認めた信書、これほどまでに赤心を明かしてくれるとは・・・・。

  兄上が、かの場所に行かれるのは手痛い事だが、ここまで想われているのであれば、仕方がないな・・・・)

 

 

〔それから―――小一時間程度、彼らは非公式ながらも、意見の交換をしあったのでした。

 

それは、事務レベルでの話し合い―――の、他に、チカラ自身や彼の兄の事を具(つぶ)さに・・・

(その中には、かの・・・14年前の、“あの事件”もあったようです。)

 

それであるがゆえか、国の内外に誉れの高い人物が、どうして若くしてこんな寂れたところに隠遁しているか・・・を、知る事となったのですが―――〕

 

 

ア:(なるほど・・・14年前に―――私の魂を奉ずるといわれた人物が・・・・

  だが、私は姉さんの・・・マエストロの術によって、7万年後の・・・アヱカのこの身に宿る事を約束された・・・。

 

  ―――と、言う事は・・・過去にも同じような事例が??

 

  ―――そうか!それも姉さんの策のうちだったんだ、でも・・・おそらく彼はその事を知らずに・・・気の毒な事をしたものだ、な―――

 

  しかし・・・似た名前もあったものだなぁ・・・その人物の名も、『ジィルガ』―――だったなんて。)

 

 

〔今のは、ちょっとした女禍様の回顧録・・・なのですが、中でも興味を引くのは、

女禍様自身が宿る事を約束されたのはアヱカのみ―――だったというコト・・・。

 

では、今までの作中に出てきた『ジィルガ=式部=シノーラ』や、彼女以前にも“100年に一度”の割合で輩出していると言われている者達の事は・・・?

 

それこそが、かつて“皇”であった自分を補佐し、“丞相”といわれた実の姉の『マエストロ』といわれた人物が、

女禍様より先に復活をするであろう、カ・ルマたちを見越して、前もって施していた策略だったのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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