<第三章;ギルドと、その頭領>

 

≪第一節;女頭領≫

 

 

〔さて、その一方で、姫君のロザリオを鑑定し、かの盗賊の手より引き上げた、あの鑑定士は・・・?

 

丁度うらぶれた路地にある・・・それが例え昼間であったとしても、存在(あ)るか、そうでないかさえも定かではない・・・

そういうところにある一つの建物の前に来ていたのです。〕

 

 

ナ:ふぅ・・・いつ来ても、相変わらず気味の悪い建物だねぇ・・・。

  ―――入るよ。

 

盗:オッ、誰かと思やぁ、両替商のナオミじゃあねぇか、どうかしたんかい?

 

ナ:ああ、ちょっとな。

  それより悪いんだけど、今ここに頭領いるかい?

盗:ああ〜いるけどよぅ、今んとこ、すこぶる機嫌―――悪そうだぜぇ?

 

ナ:ぅん?何か・・・あったのかい?

盗:あったのかじゃねぇ〜よ。

  何でもここんところ、盗ってくるモノ、クズ・ガラクタ以下だし。

  おまけに、以前から言ってた・・・ここの独立採算制・・・その後ろ盾に、カルマと手を組もうとしたんだが、それが条件付でねぇ・・・

 

ナ:ここの?(独立化か?)

  ―――で、どんな条件なんだい。

 

盗:ほれ、お前ェも知ってんだろ? この4・5日か、一週間前、ヤツらの手によって滅ぼされた国の事。

ナ:ああ、確か、「テラ」だったよな・・・。

 

盗:おぉよ・・・その国の、最後の生き残りの引き渡し・・・そいつが条件なのさ。

 

ナ:(ふぅん、なる・・・ほど、ねぇ・・・)じゃ、あたしがこれから頭領に会う・・・ってな事も、強(あなが)ち損にゃならんて事だ。

盗:あぁん?そら一体どういう・・・?

 

ナ:へへっ、そりゃアレだよ。 あんたなんかにゃ関係ないってね。 それより、至急取り次いでくれよ。

 

盗:ん・・・なっ!ちっ・・・わ――かったよ。

 

 

〔なんと、ここの・・・今度新しくなった頭領は、恐ろしく頭も切れるようで。

今までのどの頭領も、ここの維持存続の為に、他の“列強”に貢物として、ブン捕ってきたモノを上納していたものを・・・

ここ数年で“列強”の一つにまでのし上がった、新興の「カルマ」と手を結ぶことで大きな後ろ盾を得、

そして今までに、誰にもなしえる事の出来なかった、ここを「独立採算制」にしようとしていたというのです。

 

でも・・・旨い話はそうそうないもので。

ここのところ手下の盗ってくるモノといえば、愚にもつかないような、クズ・ガラクタとしか言い様のないものばかり・・・

それにこの街には、ナオミのような優れた鑑定士達がいるというのに、彼らに回すことなく、頭領自身が鑑て判断しているようなのです。

しかも恐るべきことには、彼の者の鑑定眼は、十中八・九外れたことはなかったようです。

 

それに、カ・ルマからは、無理難題とも言える―――「テラ国の生き残りを見つけ次第、こちらに引き渡せ」

とは・・・頭領の機嫌を損ねるには、事欠かなかった、ということのようです。

 

 

そして鑑定士、とある秘策を胸に、ギルドの頭領の前に・・・・〕

 

 

頭:なんじゃ・・・いま非常に機嫌の悪い妾に、用がある者とはそなたの事か。

 

ナ:ハ・・・ッ、お目通りが叶いまして、ありがたく存じ上げます・・・。(この声・・・女??)

頭:して、用件は・・・

 

ナ:はっ、実は・・・(は・・・はあぁ・・・っ!)

 

 

〔会話をするに際しても、至極丁寧な物言い、そしてややトーンが低いとはいえ、澄み切ったその声は、「ひょっとして女性??」と思った鑑定士。

そして、用件を申し述べるのに際し、平伏していた頭を上げた瞬間、彼女の目にしたもの・・・とは。

 

亜麻色の長い髪を後ろで一つに束ね

左右違う色の瞳

右は『エメラルド・グリーン』に、左は『ピジョン・ブラッド』

そして・・・

椅子に座っているとしても、

その者の長身が分かる程の、

体躯の持ち主。

 

豊満な胸元に、

しなやかな肢体

 

そのどれをとっても、ここには明らかに不釣合いの美、それが今の・・・このギルドの頭領である女性、その名を・・・・〕

 

 

婀:(婀陀那;女性;23歳;出身、経歴一切不明ではあるものの、その美貌は確かなもの・・・・のようではあるが??)

  なんじゃ、用があるなら早よういたせ。

  妾はいま非常に機嫌が悪い!!

 

ナ:ハ・・・ッ、い、いえ・・・あ、あなた様の美しさに、思わず見とれてつい・・・・

 

婀:ぅん? フ・・・ッ、ハーッハッハッハ!これは異な事を申し立てる者もおったものよ。

  この妾に言い寄ってくる数多(あまた)の男共は、妾の目に止まらんが為によくそのような事を申しておったが・・・

  女子(おなご)のお主にまで、そのような事を申されたのでは、いささか返答にも困るものよ。

 

ナ:あ・・・っ、こ、これは申し訳ありません・・・

婀:うむ、まあ好い・・・それよりなに用か。

 

ナ:はい、実は頭領に見て頂きたいモノがございまして・・・

 

 

〔そのあまりの美しさに、声を失ってしまう鑑定士・・・

女の彼女でさえも、「美しい」と思えてしまう現在の頭領に、当初の計画は飛んでしまいそうになるのですが・・・

何とか気を持ち直して、自分の目的を果たす計画に取り掛かり始めたのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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