≪二節;鑑定眼≫

 

 

〔そして、この時鑑定士が見せたモノ・・・とは、あの姫君のロザリオだったのです。〕

 

 

婀:ほほぅ・・・これはまた見事なロザリオではないか、これをどこで・・・?

ナ:はい、実は自分の知り合いから譲られたものでして・・・いかがなものでしょうか?

 

婀:ふぅム、中々の仕事のものよのぅ、妾は気に入っ・・・(うん?)・・・・なんじゃ、これは―――・・・

ナ:気付き・・・ましたか。

 

婀:気付かぬもなにも、このロザリオの中心部に嵌(は)められておった装飾はいかがしたのじゃ!

  それがなければ、ガラクタも同然ではないか!!おのれ・・・・うぬも・・・!!

 

ナ:お怒りはごもっとも!ですが、今回こちらの用件、実はそのロザリオではないのです。

婀:なん・・・・じゃと?

 

ナ:いいえ・・・正しく云うなら、そのロザリオの中心部に嵌められてあったもの・・・それこそが、これからの本題、

  そして、こちらが提示する取引にてございます。

 

婀:ほぉう、成る程、つまりはタダでは転ばぬ・・・というわけか。

  ―――で?そのモノと、そちらの取引の内容・・・とは?

ナ:それより、こちらの提示する取引に応じてくれる確証は?

 

婀:ふぅム・・・まあそのあるモノ・・・と、そちらの取引の内容次第じゃのぅ。

ナ:それでしたら・・・実は、自分はここの「専属の鑑定士」になりたいのです。

 

婀:ほほう―――まず始めに、そなたの取引の内容からか。

  ―――で?「専属」とは、そなた・・・妾の鑑定眼は・・・

 

ナ:いえ、ケチをつけるなど滅相も・・・そのあなた様の正しき眼には、我ら一同舌を巻いている限りで・・・

  中には、店をたたむモノまでいる次第でございますよ。

  ・・・ですが―――

 

婀:(フフフ、成る程のぅ・・・)うん?

ナ:ですが、自分が今までに調べたところ、あなた様が廃棄しておられたのは、クズ・ガラクタと呼べるものばかり

 

婀:フン、その事か。

  いかにも、妾は贋物には興はない、故に捨て置いたまでの事よ。

 

ナ:そうですか・・・・

婀:うん?なんじゃ、それは・・・(―――香炉?)

 

ナ:これは先日、ここの廃棄処分場にて、捨てられていたのを偶然にも自分が見つけ、拾い出したもので・・・「ダリルの香炉」と、云うモノでございます。

 

婀:フン・・・それの、贋物であろうが。

ナ:果たして・・・そうでしょうか?

 

婀:・・・なんと?

ナ:よく見ていて下さい・・・・(スリスリスリ・・・・)

 

 

〔実は鑑定士は、今回自分の目的を達する為にある取引を持ちかけようとしていました。

それが・・・自分をこの「ギルド」の「専属鑑定士」と認められてもらう為、今現在ギルドが血眼になって探している―――

最後のテラの生き残り・・・そう―――あの姫の行方の手がかりが示されると思われる、あのロザリオを引き合いに出してきたのです。

 

でも・・・それがそうだとすぐに判ってしまっては、自分の目的が果たせられないだろうと分かっていた為、

敢えて中央に嵌められていた装飾は取っておいたのです。

 

これには頭領もすぐに判り、自分を莫迦にしたような態度に腹を立てたのですが・・・

そこが実は鑑定士の策―――つまり、自分と頭領と、どちらの「鑑定眼」が勝っているか―――・・・

その勝負に持ち出したのは、偶然自分が処分場から見つけた「贋物の」ダリルの香炉と云われる代物―――

 

つまり、以前に頭領が「贋物」と判断したモノを引き合いに出し、それに異議を唱えたのです。

そしてここで鑑定士、その香炉の胴の部分をさすりだしたのです、すると・・・?〕

 

 

婀:(うん??香など炊いておらぬのに、いま微かに香りが・・・) こっ・・・・これは!?

ナ:・・・・今では、精巧なモノまで出回っている始末・・・自分が気付かねば、これは今ここにはなかったモノでございますよ・・・。

 

婀:うぅむ・・・成る程のう・・・・あいや、分かった。

  お主の専属の件、考えておく事にしよう。

  それで?こちらのこのロザリオの件はいかがしたのじゃ。

 

ナ:実は、これがそうにございます・・・

 

婀:ほう、これが・・・(うん??こ・・・っ、これは・・・!!)

ナ:お気付きでいらっしゃいますか? それこそ正真正銘、先程滅亡したばかりの・・・「テラ」・・・の紋章でございますよ。

 

婀:・・・お主、一体これをどこで・・・? いや、それより、そのような事を一体どこで―――・・・

ナ:失礼ながら、あなた様がここの独立化を目論み、「カルマ」と手を結ぼうとした事、

  ここの手下の一人より習得済みなんですよ・・・こちらはね。

 

婀:成る程、それでお主も、ここの専属にならんと・・・

ナ:おぉっと、ここの専属になるのは、予(かね)てからのこっちの野望の第一歩・・・って事でしてね、なぁに多くは望みませんよ。

 

婀:(フン・・・・下賤の輩が・・・)よい、分かった・・・。

  妾直々に認可をくれてやる。

 

  近こう―――参れ・・・。

ナ:(ヘヘへ・・・・)

 

 

〔なんとも、自分の思惑通りに、事が運べて大満足の鑑定士。

しかし・・・ここに彼女最大の誤算があったのは否めないことだったのです。

 

何しろ、いま自分が向かっているのは・・・数千人からの悪党を束ねる首領、

その者と対等・・・いや、自分にだけ有利に事を運ぶ・・・ということの危険性を、この時の彼女は熟知していなかったのです。〕

 

 

ナ:どうも、毎度・・・・

  ―――?! お・・・っ?!ぐ・・・っ―――!! い、一体・・・な、何・・・を!?

 

婀:フ・・・ッ、フフフ・・・よくもこの妾を謀(たばか)りおおせたな。

  うぬには認可ではなく、こちらのほうが似合いのようじゃ。

ナ:お・・・っ、おのれ・・・!ひ・・・・ひきょ・・・う―――

 

婀:つまみ出せぇい!!

手:ハハッ!

 

 

〔そう・・・なんと首領、自分達の弱味につけこんだ取引をしようとしたこの鑑定士に、認可状ではなくヒジ鉄を喰らわせたようです。

(でも、それが刀剣の類ではなかっただけ、まだマシだったのかも・・・)

 

そして、その首領は・・・・〕

 

 

婀:フフフ・・・・鑑定士よ、お主の厚意、ムダにはせぬぞ。

  に、しても・・・・なんとも惚れ惚れするものよ・・・今しばらくは妾の所有物(モノ)とすることにいたそう。

 

 

〔鑑定士の最大の誤算・・・それは悪党の首魁相手に取引を持ちかけたこと・・・それだけではなく、

この首領が、以前のような者だったのなれば、己の慾に目がくらみ、その取引には応じていたであろうものを・・・・

 

今の今まで対峙していた者は、まだその上に、冷徹なまでの判断力と、策略の兼ね備わった人物だったのです。

 

そして、いまや姫君のロザリオは彼女のモノに・・・・〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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