≪第三節;めぐり逢わせ≫
〔その一方、姫君と盗賊は・・・〕
ア:あぁ・・・もうお腹一杯。 もうこれ以上はいりませんわ。
ス:はは・・・・そりゃドーモ。
主:お客さーん、しめて、600ギルダーね。
ス:うぐ・・・も、もうちぃとばっかし、どうにかならんかね?
主:だぁ~~め。
ス:(ち・・・・ッ、足元みやがって・・・) ほらよっ。
主:毎度ありぃ~☆
ス:はぁ~あ、ヤレヤレ・・・こいつぁ、お仕事頑張んなきゃダメかね・・・。
ア:あの・・・どうかなさったのです?
ス:へっ?!あ・・・・いや、その、ナンだ、なんでもないんだよ、なんでもね。
ア:そうですか・・・
あの、今までお世話になりっぱなしで、どうも申し訳ありませんですね。
この償いは、必ずいたしますので。
ス:えっ?!あ・・・ッ、あぁ・・・。(に、しても・・・なんて穢れなき笑顔だい、まるであの人と・・・瓜二つじゃあねぇか・・・)
・・・それより、あんたさん、これから寝泊りするあてでもあるんですかい?
ア:え?あ、い・・いいえ、お恥かしながら・・・
ス:ンじゃあ、ワシについてきな。
ま、あんたさんにゃあ満足とはいえねぇかも知れねぇが、いい木賃宿紹介したげるよ。
ア:えっ?!そ、そんな・・・そこまでステラさんに甘える・・・だなんて。
ス:なぁに、いいって事よ。
こういう時の人の厚意ってなもなぁ、素直に受けとくもんだ。
それじゃあ、案内してあげよっかね。
ア:ありがとう・・・ございます。
もう、何から何まで・・・これではお礼のしようが・・・
ス:へへッ、まぁ・・・ほんとは、ワシんとこでもいいかねぇ・・・なんて思ってたが、あいにくとアバラ家でね?
しかも、商売道具を散雑させてるとなりゃあ、二人でも窮屈に感じるもんでね。
それで、あんたさんにゃ気の毒だが、他に泊まってもらう・・・ってスンポーなんだよ。
ア:まあッ―――うふふ・・・
ス:それに、御礼ならイヤというほどしてもらってるんだよ・・・こっちゃあね。
ア:え・・・っ??
ス:あんたさんの・・・その笑顔だよ。
ここ数年で、そんな穢れなきモノを見たのは久しぶりでねぇ・・・。
まるで、麻のように乱れた、今のご時世にゃ、一服の清涼剤みたいなもんさね。
ア:なんて・・・お上手な・・・お止めください。
ス:いゃあ、本当の事でさぁ。
で、なけりゃあ、あの「スピリッツ」もああまでなつきゃしなかったろう。
ア:そうだったのですか・・・それでは、このわたくしの・・・わたくしの者のような笑顔でよろしければ、いくらでも。
ス:フフ、そうそう、そいつをこのワシだけでなく、周りの者達に投げかけてやったら、どんなもんなんだろうねぇ・・・。
ア:え・・・?
(この人・・・今なんて?周りの者達に投げかけてやったら?この・・・わたくしの笑顔を?
も、もしかしてマサラの、最期に言わんとしていた事・・・って、これの事なの??)
〔なんとも―――気持ちの良い食べっぷりで、まさか盗賊もこの姫君がこんなにまで食べるはずがないと思っていたようですが・・・
そこはそれ、紹介した手前もあるからか、今更足が出るなどとは云えない様子・・・
それに、軽くなった自分の財布を見て、明日からお仕事に精を出そうと誓ってはみていたのです。
そして盗賊、ついでに・・・と、親切心を起こし、これから姫が泊まろうとする宿をも紹介してやると言い出したのです。
そのことに感謝しきれない姫・・・いつしか、この先自分が永らえて宿願を果たしたとき、この時のお礼を考えていたようなのですが・・・
なぜか盗賊は、そのとき姫から零(こぼ)れた笑顔が「値千金」だともしていたのです。
すると―――この・・・一人の盗賊が何気なく発した一言。
それはかつて、自分の身代わりになって散っていった、護衛の者の今わの際の言葉・・・と、
そう姫君は理解したようです。(でも、確かに、それは間違いではなかった・・・のですが。)〕