≪五節;“母”の名―――≫
〔そして―――自己発炎能力<パイロキネシス>を披露した少女の口からは・・・〕
ヱ:ヤレヤレ―――大人しく帰っていれば、痛い目を見ずに済んだものを・・・
どうかな? 今からでも遅くはない、このまま陣地に帰りたまえ。
バ:―――ッっきゃろう・・・―――ッきしょう!!
このまま・・・手ぶらで帰れるかってんだ!!
ヱ:・・・そうか―――。
よく分からんな、折角助かる唯一の機会を、自ら潰してしまうとは・・・
それに―――こちらとしても、余りこの形態で能力(チカラ)を開放しすぎると、歪(ひず)みを起こしてしまうのでね・・・。
ゼ:(ええっ?! この・・・“形態”? “能力(チカラ)の開放”?
い、一体・・・何のことを言っているの・・・)
バ:なんだと―――何をおかしなことを言ってやがるか・・・
〔それは、やもすれば 慈悲深げ な言葉・・・『大人しく帰る』事を勧めたのです。
それには、一見一聞(いっけんいちぶん)すると、ここが“流血沙汰”になるのを、極端に嫌っているようにも聞こえたものなのです。
ですが―――少女・・・ヱリヤにしてみれば、未熟な身体での、高等な能力(チカラ)の開放のし過ぎは、
余り良くない事を自覚していたのです。
そして――――今までの一連の所作事などを目にしてきたゼシカは・・・
次に、この少女の口から、思いもかけないことを耳にするのです。
それは―――・・・〕
ヱ:それに・・・今日、私がここに来たのも、単なる偶然ではない。
私の古(いにし)えの知己―――
ニルヴァーナ=へカテ=ヴェスティアリ
―――に、以前貸与していた“あるモノ”を帰してもらうためと・・・彼女が息災か否かを訪ねに来たのだ。
ゼ:えええっ?! ど―――どうして母の名を・・・まだ、一言も話していないのに・・・
ヱ:確か―――“ゼシカ”だったね、あなたのお名前・・・
今、あやつがどうしているか――――・・・は、あとで訊く事にしよう。
その前に―――・・・目の前の ゴミ を片さねばなるまい。
バ:あ゛ん゛だとぉ〜〜―――う!! ・・・んのヤロウ〜・・・オレ達の事を“ゴミ”だとぬかしゃあがるとは・・・
おい―――そのガキはブッち殺しても鎌やしねぇ・・・但し、そこの女は殺すんじゃあねぇぞ・・・
散々に嬲り倒して、その後で殺してくれるからなぁ・・・。
ヱ:フンッフッフッフッ・・・なんとも、まァ―――頭の悪そうな発言か・・・よくよく、育ちが知れる・・・。
ゼシカ―――お前もよく見ておくといい・・・。
私―――いや・・・太古の昔から、“皇”に楯突いてきたヤツらの・・・末路というものを―――!!
――〜カ ッ〜――
〔クリムゾン・ノート;彼女=ヱリヤが持ちうる『自己発炎能力』<パイロキネシス>が、如実に具現化されたもの。
その炎の挟間(はざま)に見て取れるのは、焔竜の腕(かいな)か・・・
そこで・・・ゼシカは、どうしてこの少女が、自分の母に会いに来たのか―――どうして古き知己だといったのか・・・
その本心とともに、知ることとなったのです。
そう―――それは・・・以前の――――大戦が終わった後、自分の持つ≪クヴェル≫、“グノーシス”『プロミネンス』・・・
それの調整と修繕を兼ね、ゼシカの母である ニルヴァーナ=へカテ=ヴェスティアリ に貸し与えていたのを、
彼女の顔見たさついでに、返して貰いに来ているということ・・・。
ですが・・・いざ訪ねてみれば、その娘がいままさに“拉致監禁”の憂き目に晒されているところであり、
それが、昔より“因縁”深いカ・ルマの仕業・・・と、あっては、知らん顔を決め込むわけにも行かなかったようです。
そこで、ヱリヤが行使したのが、自分の能力(チカラ)でもある、 パイロキネシス の具現化・・・
それにより、消失してしまうバルザックの部下の兵卒達・・・
しかも―――〕
バ:う゛っぎゃああ〜〜―――!! あづい・・・熱いぞ!!ちっきしょう!!
お、覚えてやがれ―――!!(逃走)
ヱ:(フッ・・・)それ見たことか―――高いモノについただろうが・・・
ゼ:――――・・・。
ヱ:ふふ・・・驚かせてすまなかったね、ゼシカ―――
ゼ:――――・・・・。
ヱ:・・・・――――に、しても、大したものだな。
ここであれだけ能力(チカラ)を暴走させても、焦げ付きの一つも見せてはいない。
だが・・・恐らくは、ニルの奴めがこの家の築材にも、私の“炎”に対する抵抗(レジスト)を組み込ませていたからに違いない・・・。
ゼ:・・・・まさか―――あなた様が・・・よく母の言っていた・・・
“お方様”
ヱリヤ=プレイズ=アトーカシャ
―――様・・・だった、なんて・・・。
ヱ:・・・すまなかったな―――。
こちらも黙っておくつもりはなかったのだが、結果そうなってしまった・・・。
しかし、やはり『リミッター』なるあれがないと、どうもいけない・・・。
ゼ:・・・・そのことなんですが――――
ヱ:ああ・・・そうそう、そういえばニルの奴は、今、何処にいるんだ?
『ニルス・バーグ』か?それとも・・・『ドレスデン』? いや、それとも―――・・・
ゼ:あの・・・お方様―――!!
〔その不逞の将校バルザックは、大火傷を負い、命かながらに・・・まさにほうほうの体(てい)で、自分の陣地へと戻って行ったのです。
そのあとで・・・ようやくにして水入らずの邂逅があったのですが、
読者諸兄にはお気付きになられたでしょうか?
ようやくにして名の知られた存在―――ゼシカの母“ニルヴァーナ”・・・
その存在が、作中に幾度も出てきていながらも、“生”か“死”か・・・そのどちらも詳らかにされていない事を。
―――ですが・・・次に、その娘の口から、“母”が今どうしているか・・・重々しく語られたのです。〕