<第三十一章;州公会議>
≪一節;置き土産・・・≫
〔その人は―――類希なる“武”を持ち合わせていながらも、とても情に厚い人でした・・・。
その人の古き知己である、 ニルヴァーナ=へカテ=ヴェスティアリ の訃報を、
娘である ゼシカ=ノーム=ヴェスティアリ から知らされたヱリヤ・・・。
初めは、半信半疑だった彼女も、ニルヴァーナが亡くなったことの事実としての物的証拠『お墓』を前にし、
ただ―――静かに慟哭するしかなかったようです・・・。
そして・・・一頻(ひとしき)り、哀しみの泪を流し終えた、ゼシカの母の友人は―――〕
ヱ:・・・ありがとう―――
恥ずかしい話だが、泣いて心が洗われたよ・・・。
ゼ:いえ―――・・・こちらこそ、何のお構いもしませんで・・・
ヱ:いや、いいんだよ・・・。
こちらも突然にお邪魔をした―――
ゼシカ、お前も、お前の母に早く追いつき、追い越せれるよう頑張りなさい。
では、お暇(いとま)をし―――・・・
ゼ:あの―――! そのこと・・・なんですが―――
ヱ:(ぅん?!)どうした―――
〔“恥ずかしい話”・・・恥ずかしい話だと、その人は言った。
自分の古くからの知り合いの“死”に直面し、泪する―――と、言ったことが・・・
しかし、それは―――・・・自分より先に逝ってしまった者達が、“善い人”ばかりであり―――
現在(いま)、このように生き恥を晒している存在が、『ろくでもない』ことを暗示していたのにも、係わりがあったのです。
それから、とうとうお別れしなければならない時になり、
一抹の寂しさから、振り切るように去ろうとするヱリヤを――――
そんな彼女を、ゼシカは引き止めたのです。〕
ゼ:あの―――・・・お、お方様でよろしければ・・・
は、母の事、もう少しお話できないでしょうか―――?
ヱ:(・・・・フッ)でも―――ニルの事については、直接ニルより・・・・
ゼ:は、母は―――確かに昔の事はよく話してくれましたが・・・
母自身の事については、一言も―――・・・
ヱ:・・・・フフ、フフフフ――――
ヤレヤレ、悪い奴だ・・・今日(こんにち)の私たちがあるのも、その半分はあやつのお蔭だというのに―――
肝心な事を話さず、他人の活躍ばかり話して・・・
ゼ:はい―――・・・それで、母はどんな人だったのでしょう?
他には、どんな事をして・・・・
ヱ:・・・まあ、待ちなさい――――
それをここで話すのには、少し憚(はばか)られる―――
ゼ:それは・・・どうしてでしょう?
ヱ:(フ・・・)あやつが―――ニルが、そこで聞き耳を立てている・・・・
ゼ:あ・・・・っ―――
ヱ:まあ・・・あやつは完全な裏方だったからな―――
だから、自分が活躍したという自覚もなかったのだろう。
それに―――・・・あやつは、照れ屋さんだったから・・・
ゼ:(クス)まあっ―――
ヱ:(やっと・・・笑った―――)
それに、積もる話も、山とある――――・・・
ゼ:(え??)そ、それでは―――!!?
ヱ:ああ、暫らくは滞在してあげよう。
それに―――あのカ・ルマの奴等が、また来ないとも限らんから・・・な。
〔ゼシカは、もっと母の事を知りたかった・・・・帝政時代―――将作大匠として、数々の魔法術具の開発に関与し、
それと同じくらいの、実用的なモノの製造に携わってきたとされる自分の母・・・
しかし―――ニルヴァーナ自身が、気恥ずかしい所為もあるからか、
そのことに関しては、娘であるゼシカにでさえも、全くといっていいほど話していなかったようなのです。
そこで、ゼシカは一計を案じる事としました・・・。
今、偶然にも、亡母を訪ねに来てくれた古き知己は、果たしてそのことを話してくれるだろうか―――・・・と、
すると―――やはり、母の知己も『そのことは憚られる』と、したのですが―――
でも、どうやら『話したくはない』ワケではないらしく・・・
永眠しているはずの亡母が、『聞き耳を立てている』―――と、いう、いわばユーモラスなモノで返してくれたのです。
そのおかげで・・・ゼシカは、つい笑ってしまいました。
だって、余りにも突拍子もないことで、不意を突かれたから・・・
でも・・・実は、それこそが、その人の狙っていたことだったのです―――
なぜならば・・・年頃の娘であるにもかかわらず、自分があったときからでも ニコ ともせず、
やや翳りを帯びた表情だったから―――・・・
それに、聞けば数年前に最愛の母を亡くしたから・・・・
だから―――ここは一つ、ここに残ってみて、古えの四方山話でもしてみたり・・・
とも、思っていたようです。〕