≪六節;慎ましやかなる者≫
カ:それはそうと―――あなた様が、新たにガク州の公に就いたといわれる・・・
ア:はい、わたくしがこの度ガク州を治むる立場になりました、アヱカ=ラー=ガラドリエルと、申し上げる者です。
カ:(ふふふ・・・)何もそう堅くならなくとも―――“州公”でよろしいのでは?
ア:いえ―――でも、わたくし如きの存在が、大国の“州公”だなんて・・・
未だ実感すら湧いていないのです・・・。
テ:はっははは―――だがしかし、皆でそう呼べ・・・と、いわれるなら、
オレは御免被りたいもんだな。
ソ:ナゼです―――?シン州公。
テ:うん?だって―――舌を噛みそうじゃあないか。
カ:(ククッ―――)はっははは―――いや、そういわれてみればそうですね。
コ:(プッ―――)確かに―――
ソ:(ぷぷぷ・・・)い、いけませんよ―――シン州公、これから真面目な話し合いをするときに、皆を笑わせては・・・
テ:うん?まあ―――いいじゃあないか、そう堅いことをいわれるなチ州公。
ソ:えぇっ?!い、いや―――しかし・・・
カ:まあまあ―――では、ここは一つ・・・双方の顔を立てるということで、
皆さんこれからお互いを“州公”などではなく、“名”で呼んでみては―――?
ソ:う・・・うぅ〜〜―――ん
テ:まあ―――オレは、どちらかというと、そっちの方がいいが・・・
コ:拙者は―――賛成だ。
キ:ワシは・・・どちらでもかまわん。
ア:あ―――有り難うございます。
何から何まで、お気を使っていただいて・・・。
それにしても―――皆様が優しそうな方ばかりで、本当に良かったです・・・。
〔この度ガク州の長に就いた者は・・・実に物腰柔らかで、その応対に関しても丁寧な方でした。
しかも―――容貌も、紅く円(つぶ)らな眸が実に印象的で、この世の穢れとも呼ぶべきモノを全く知らない・・・
そのような感じさえしたのです。
それを、五人からの男衆の中に紛れ込んでいる・・・と、あっては、
少しばかり怖気もあったのだろう―――と、そのうちの一人・・・
シン州公であるテンが、重くなりつつある場の空気を読み取り、冗談交じりで和ませてくれたようです。〕
テ:ほほぉ〜〜―――優し・・・“そう”ですか・・・・
ア:えっ?あっ―――これは大変失礼な事を・・・
“そう”ではありませんですね、優しい方々で・・・。(ニコリ)
ソ:(プププ―――)シン州公―――
テ:おい―――ソン君、ペナルティだぞ。
ソ:えっ??く―――“君”??
テ:ああ―――だって・・・そなたが一番年下じゃあないかな?
ソ:えぇっ―――でも・・・ガク州公は・・・
ア:わたくしは・・・22でございますが―――
ソ:えっ―――?! そ・・そん―――な・・・
テ:ソン君、ペナルティ二つ。
ハミルトン殿が『“州公”ではなく“名”で・・・』と、言った傍からそれを使いおるし―――
それに、年頃の女性に年齢を聞くというのは、どうかと思うがなぁ。
ソ:ああっ―――こ、これは大変失礼な事を・・・どうもすみません、アヱカ―――殿・・・。
ア:いえ、こちらこそ―――気を使わせて、申し訳ございません・・・。
〔そこには―――もはや、“壁”といったようなものは存在だにしていませんでした。
彼女のその人柄の良さ―――他の者よりも低身平頭な態度が、そうさせてしまうのかもしれませんが・・・
実に自然と、その輪の中に溶け込んでいった事実があったのです。
でも――― 一つ気付きませんでしたか?
今までの、この砕けた会話の中に、ただ一人・・・参加しなかった者がいたことを・・・〕