<第三十二章;偽退誘敵>
≪一節;ガク州公のある思惑≫
〔この度行われた『州公会議』に於いて、話し於かれる主要の議題は全て出し、須らく解決はしたのですが・・・
実は、アヱカには、もう一つ、とある事を出すべきか―――出さざるべきか―――を、迷っていた事項が、
たった一件だけあったのです。
その事を―――今回の『州公会議』での“議長”を務めたジン州公・カは、なぜかしら覚(さと)っており、
でも、彼ならば・・・と、いうことで、場所を改めて話し合おうとしたところ―――
そこには、もう一人―――・・・〕
カ:―――こちらにございます・・・。
ア:はい―――
(あ・・・っ)ソン殿・・・
ソ:―――お待ちしておりました。
実はあの後、ハミルトン殿から、私にも『居残っておくように』・・・と。
ア:えっ―――でも・・・カ殿は・・・
カ:まあ、あれも一つの“方便”とでも申しましょうか―――・・・
しかし、アヱカ殿におかれても、今回の“議題”の一つにあげようか、あげまいか・・・
―――と、した重要事案もおありでしたでしょうし・・・
ソ:え・・・?重要事案??
ですが、話すべきことは全てあの時に―――
ア:いえ・・・実は、この事は、私の内でも随分と迷っていたことだったのです。
ソ:そ―――それでは・・・
ア:(ふぅ・・・)もう既に、ソン殿におかれても、私の州で『二割の兵の削減』と、
それに伴う『カ・ルマの侵攻』の件は、知っておいでのはずです―――
まあ、今回は州軍の働きが良かったから、撃退には成功したようなのですが・・・
カ:今回のはまぐれに過ぎない―――と・・・
それに、度々侵攻の撃退に当たっていたのでは・・・
ア:―――はい、その通りです。
それに・・・これからお話しするのは、いわば私の為した事に対し、他州から手助けしていただくこと―――
ですが、それでは自分の尻拭いを他人にさせてしまうことになり兼ねなくて・・・
ソ:成る程―――それで、今回の議題には出しにくかった・・・と。
ア:はい、真に申し訳次第もありませんが・・・。
〔それは、この州公会議が開催された地―――王都・ウェオブリがあるチ州のソンなのでした。
ですが、彼が居残っていた理由も、自主的ではなく、ジン州公であるカに促されたからだ―――と・・・
しかし、アヱカの口から語られた事を聞くに及び、果たして、居残っておいて正解だった―――と、していたのです。
でも・・・それは、アヱカにしてみれば、他州に迷惑をかけ兼ねない事でもあったので、
今回の会議では、見送ろうとも思っていたようなのですが、思いもかけない今回の事に、
隠すことなく、カとソンに話してみたのです。
そう―――それこそは、度重なるカ・ルマの侵攻における防衛戦での、兵力の援助・・・だということだったのです。〕