<第三十三章;カイン―――その実力>
≪一節;撃退戦終了―――のあとで・・・≫
〔ガク州司馬・キリエの描いた『偽退誘敵』は、まさにその言葉・・・彼女の思惑通りに、事が運んでいきました。
―――が・・・ここで、双方が予測の範疇の外であった、ある存在が出てきてしまったことで、
その戦闘での戦局が、がらりと変わってしまったのです。
では・・・その“ある存在”とは―――
畏るるべき、 蒼龍≪デス・バハムート≫ の背に、臍まで同化してしまっている、女形の騎士・・・
ハイランダー
{龍眷属}
しかも、どうやらそのハイランダーは、この近辺を縄張りとしているらしく、
二度も戦場となっているこの場所に現れて、カ・ルマの兵士“のみ”を討ち平らげる―――
と、いう、少し不可解な行動をとっていたのです。
それに、今回は、カ・ルマの投降兵3,000というおまけまでつけて・・・・
そのことに、今ひとつ釈然としないまま、グランデル砦まで帰還してきたヒは―――・・・〕
ヒ:おぅ―――戻ったぜぇ。
兵:はっ―――!
おかえりなさいませ、将軍。
ヒ:あぁ―――・・・。(キョロ・キョロ)
――――なあ、おい、キリエ・・・司馬殿の姿が見えねえようだが・・・?
兵:はいっ―――?!
ああ、司馬殿なら、ちょっと・・・・
ヒ:“ちょっと”? ちょっと―――なんだ・・・
兵:あ、いえ・・・それが、そのぉ〜〜―――・・・
――――おや?それにしても、戻ってきたの・・・出撃(で)た時より多くないですか?
ヒ:ん?! ああ―――こりゃ、まあ・・・その――――なんだ・・・
アレよ、“投降”つ〜か・・・“捕虜”つ〜か・・・
兵:はぁ・・・・そうなんですか。
―――あっ、司馬殿が出てこられたようですよ。
ヒ:おっ――――(いる・・・よ、なぁ)
〔今回も敵を撃退できて、意気揚々と帰ってくる州兵達。
でも、それとは裏腹なヒの表情・・・。
しかし、それはむりもなく、二度にわたり危機を救ってもらったどころか、手助けまでしてもらった、正体不明のあの騎士の存在を―――
いつも肝心なときに、姿が見えなくなっている、州司馬・キリエ―――そんな彼女と結び付けようとしていたのです。
そして―――今回砦に帰還してみれば、やはり思ったとおり、自分たちを出迎えにすら来ていなかった・・・
そのことに一層の疑いを深くするのですが、それが今までどこに行っていたのか、やおら砦の奥のほうからキリエが出てきたのです。
それも、すっきりとした表情をして―――・・・。
そのことを訝(いぶか)しんだヒは、なんの衒(てら)いもなく、あのことを話し、聞いてみることとしたのです。〕
キ:あら―――おかえりなさい、随分と早かったのね。
ヒ:ああ―――まあな・・・。
それよりもさぁ、あんた―――今までどこへ行ってたんだ?
キ:・・・・いいじゃない、別に―――
ヒ:いいわきゃねぇだろう!!
戦場に出向いてった奴等は、皆命を削ってんだ!!
それを・・・司令官たるあんたが、こんな後方でぬくぬくと――――何してやがッたんだ!!
キ:〜〜〜―――うるさいわねぇ・・・。
いいじゃない、そんなに怒鳴らなくっても。
ヒ:怒鳴りたくもならァや!
こっちは―――またも、あの存在に手助けされたってぇのによう・・・
キ:・・・・また、“あの存在”に“手助け”―――って・・・
まさか、あなた、またどこの馬の骨とも分からない存在に、助けてもらった・・・っていうの??!
ヒ:ああ・・・そうだよぅ・・・。
こっちは頼みもしねぇ―――ってのによ! しかも、苦戦してるときに限って、奴さん出てきやがる・・・
キ:(むっ・・・# 悪かったわねぇ〜・・・。
でも、仕様がないじゃない―――曲がりなりにも、防衛に失敗してしまって、領土が減りでもしたら・・・
陛下の――アヱカ様への風当たりが強くなってしまうのは必定なんですもの・・・。)
ヒ:あぁ〜〜あ、全くよぅ―――
あ・・・そういえば、奴さん―――ここが縄張りとかいってたなぁ・・・
でもよぉ、オレ達も同じように縄張りに入り込んじまってんのになぁ・・・
それがなんで―――・・・
キ:(グッ・・・イタイとこをついてきたわね―――
だってさぁ〜、味方を襲う―――ってのも、なんだし・・・ねぇ。)
ヒ:あ゛あ゛〜〜〜ん!もう!! 考えれば、考えるほどこんがらがってきちまったぜ!!
キ:(今度から・・・自粛しないといけない―――かなぁ・・・)
ヒ/キ:はぁぁ〜〜〜・・・。
〔どうやら、ヒはヒなりの―――キリエはキリエなりの、それぞれの悩み葛藤があり、二人同時にため息をついてしまったようです。〕