<第三十五章;咆哮(さけび)>
≪一節;冥き空間へ・・・≫
〔そこは―――・・・この地上のどこよりも、薄暗い場所でした。
その場所は―――――カ・ルマの首都であり、本拠でもあるコキュートス城。
その城内にある、シホ専属の部屋・・・
そこもまた、城の地下にあったものだから、燭台一つでも相当に暗かったのですが・・・
その二人―――シホとビューネイは、その部屋よりさらに奥、“隠された扉”<シークレット・ドア>を通じて存在しうるという、
いうなれば、もはやそこは・・・この地上には存在しえない『真の闇』・・・。
そう―――“通常空間”では、絶対にありえないとされる場所が、そこには存在していた・・・
そこへ彼らは向かっていったのです。
では、どうして二人はそんな場所へ―――・・・?
それよりも、確かな“闇”しか存在しえない、この場所―――とは・・・?〕
ビ:・・・・しかし、不気味なものですな。
私とて、主上の能力(チカラ)がなければ、数秒とかからぬうちに発狂してしまいそうです。
シ:そりゃ当然だろう〜♪
ここは―――・・・私が今までにいた場所・・・。
『次元の狭間』を、限りなく模倣している処―――なんだからねぇ。
ビ:・・・・・・。(ゴク・・・リ)
(なんとも―――恐ろしいものだ・・・ナニをなそうにも“総てを飲み込む空間”・・・。
それゆえに“何も存在しえない”とは・・・。
“光”や“闇”、ましてや“思考”すらも飲み込んでしまうという・・・。
そこに、永い間自分自身を維持しようとするなら、この空間が飲み込んでいくよりも早く、
思考などの『存在意義』<レゾン・デートル>を紡ぎ出さなくてはならない。
それを、この方は・・・10万年という時間、その身を置かれていたのだ・・・。)
〔そう・・・その場所は、かつて『死せる賢者』としてのガラティアが、その身に課せられた罪を償うため、
身を置いていたとされる『次元の狭間』・・・そこに大変似通った処だというのです。
その、まさに―――“虚無”の空間は、“自分自身”というものをしっかりと保っていないと、
言葉どおり、その空間の一部になりかねない・・・
なぜならば、その場所は“そういう”場所なのだから・・・。
別称『空間のよどみ』といわれる、この空間に、呑み込まれてしまった存在で、一杯だったのだから・・・。
では―――どうして、そんな空間が、一つの建物―――いや、この“通常空間”に、一つの施設として成り立っている??
その驚くべき理由―――とは・・・〕