<第三十六章;五顧の礼>
≪一節;州の農政≫
〔季節は廻り―――・・・アヱカが、ガク州に赴任して、半年余りが経とうとしていました。
思えば―――ガク州は、土地柄的にも、余り恵まれている場所とはいえませんでした。
だから、豊作である年と、凶作である年との差異が激しかったのです。
そこで―――州公であるアヱカが、まづ最初に推奨したのが、新たなる農地の開墾だったのです。
―――が・・・それが最初から上手くいくはずもなく、いわば、最初の関門に打ち当たっていたのです。
そして、改めてのやり様を見直すべく、民達から搾取し続けていた、“州牧”時代の帳簿に目通していると・・・〕
ア:(ふぅむ・・・)アレだけの搾取を繰り返していたとしても、こうも“良い年”と“悪い年”とが、はっきりしているとは・・・
州司農―――やはりこれは・・・
官:はい―――確かに、州公様の云われの通りでございます。
比較的降水量の多い年は、それなりに潤っているのではございますが・・・
今年のように少しばかり暑い日が続きますと―――・・・
ア:・・・・今までに降ってくれていた雨も“無駄”か―――
これは早急に、灌漑の設備を見直さないといけないな。
官:は・・・??“灌漑”―――で、ございますか?
ア:(ぅん?)知らない―――のか? “灌漑”の『用水路』のことを・・・。
官:――――・・・。
ア:(はぁ・・・)なんてことだ―――・・・
作物を作るのに最も基本的なことを、『州司農』たる君が知らないとは・・・
どうやら―――君達は、民達から搾り取るためだけに知嚢を絞ってきたようだな。
官:お―――お恥ずかしい限りで・・・。(く・・・っ)
ア:(ふぅ・・・)まあいい―――
灌漑の用水路の事は、州兵たちを動員して作らせることにしよう。
それよりも問題は・・・・その設備が整うまでの間だが―――
〔正直―――民達から搾取していた時代の帳簿を見る・・・と、いうのは、少々気が引けていました。
けれども、そうはいっていられなくなり、敢えて目を通してみると、
なんとそこには、『豊作時』と『凶作時』との、大きな隔たりがあったのです。
それはどうして―――と、最初は思ったけれど、意外なところから、その原因が露呈してしまったのです。
そう・・・・作物を作るのに於いて、最も不可欠なモノ―――『土地』『太陽光』、そして『水』・・・・
この三大要素のうち、ガク州が欠いていたのが、『水』だったわけなのです。
しかも―――州の“農政”を須らく知っておかなければならない官が、そんな肝心な事すら知らないでいたとは・・・
そのことに、州公アヱカは、皮肉を云ったりもしたのですが、今、急速に解決しなけれならない問題は、
『灌漑の用水路を作る』ということ・・・
でも、その設備が一朝一夕に出来るはずでもなく、アヱカは、“昔取った杵柄”を披露する事となったのです。〕