≪四節;未明のお客≫
〔こうして―――信頼の於ける一人の民に、今ではすっかりと忘れ去られた“昔の農耕法”を伝授した・・・
その後で、アヱカは、本来自分がいなければならない場所へと戻ってきた――――
の、ですが・・・〕
キ:(あっ、いた―――)州公様ぁ〜〜―――!!
ア:ああ―――キリエか・・・どうしたんだい。
キ:一体今までどこへ―――・・・(チラ)
(はぁぁ〜〜・・・)『土』と“親しみ”を持ちに・・・ですか?!
ア:・・・・そうだけど―――
キ:(“そうだけど―――”・・・って、さも当然そうにおっしゃってくれるけど・・・)
あの・・・もう少し、ご自分の分を弁(わきま)えて頂かないと―――
ア:(むっ―――)なんだい―――その言い方・・・。
まるで、私たちが悪いことをしたかのようじゃあないか。
キ:そうはいいますが〜〜―――・・・(はぁ・・・)
ア:(・・・ふぅ)全くもってがっかりだよ―――
お前なら、きっと判ってくれると思ったのに。
それに・・・その言い方、まるで姉さんそのままだぞ?!
キ:え・・・え゛え゛っ―――?! じょ・・・丞相に??
(あわわ・・・)そ、そういうつもりでいったのでわ〜〜―――
ア:・・・・そういう“つもり”が、あってもなくても、少なくとも私にはそう聞こえたぞ。(じと目)
あぁ〜〜あ―――ヤだよなぁ〜〜〜、お前まで私に対して、そんな口の利き方をするようになったなんて・・・
大きくはなりたくないもんだよ―――
―1t―
キ:あのぅ・・・(ふらぁ〜) お客様がお見えなのですけど――――・・・(クラクラ)
ア:(ぅん?)お客―――? ・・・って、一体誰なんだろう・・・。
〔別に―――キリエはその時、自分の主に対して、戒めの弁を吐いたつもりはなかったのだけれども、
“自分の主”―――女禍様は、自分の“姉”であり、『丞相』であった方から、
このことを結構、かなり口やかましくいわれていたようで、今、キリエが言ったことを、そう捉えてしまったのです。
しかも、皮肉たっぷりの“お返し”がこようとは・・・
閑話休題―――それはそれとして・・・
今、ガク州の城に、州公であるアヱカに面会を求めて、ある“お客”が来ているようなのです。
でも、アヱカには、その人物像が見えてきませんでした・・・。
なぜならば、前(さき)の『州公会議』の件もあり、今回の“高札”の件も考えられたから・・・
けれど、その“お客”の顔を見るなり、今まで自分が会いたくても会うことの出来なかった―――
つまりそこまで待ち望んでいた存在が、ついに―――と、思ったのです。
そう・・・その“お客”こそ―――〕
ア:(あ・・・っ―――)ユミエさん??!
ユ:お久しぶりでございます―――州公様・・・
〔その人は・・・あの草庵で、弟と一緒に掃き掃除をしていた お手伝いさん ・・・
そして同時に――― 一国の州を預かりながらも、度々治領を抜け出し、従者とともに草庵に来ていた州公を 襲撃した者 ・・・
その―――全く違う二面性を持ち合わせた“お客”こそ、『禽』の一羽―――
“副長”であり、=鵺=の名を持つ、ユミエなのでした。
けれども、今になってどうしてこの者が・・・?
それはいうまでもなく―――〕
ア:あなたが―――ここに来ているということは・・・・
ユ:・・・はい―――。
今度こそ、本当に、我が主の タケル=典厩=シノーラ 様が、おかえりになられたのです。
そのことを、我が主に幾度となく会いに来られたあなた様に、一番にお伝えしたくて・・・。
ア:(タケル?)しかし―――“私に一番に”・・・とは?
あの―――ノブシゲ殿や、その人の弟君であるチカラ殿へは?
ユ:(クス・・・)あの方々は―――“身内”、またはそれも同様ですから・・・。
けれど、あなた様は違う―――ですから、この私の一存でお伝えにきたのです。
ア:あなたの―――・・・でも、それでは、勝手に動いた事で、咎めを受けるのでは―――?
ユ:(ス・・・)(・・・これからは、この方が私たちの―――)
いえ・・・ご心配には及びません、きっとあの方も分かってくれることでしょうから。