≪五節;“虎”と“龍”と返礼と―――≫

 

 

〔それはいうまでもなく、アヱカがこれまでに幾度となく、その場所まで会いに行っていた存在・・・。

けれども、その度毎に会えずにおり、一時は『ひょっとすると 縁(えにし) がないのでは』と、諦めていた存在。

 

それが今―――あの草庵に戻ってきている・・・と、言う報せだったのですが、

アヱカは、その喜びに逸(はや)るよりも、主たる存在からの下知のないまま動いている、ユミエの事を気遣ってやっていたのです。

 

 

こうして―――伝えおくべき事を伝えたユミエは、ガク州城を後にし、草庵へと戻っていったのです。

 

その後、州城では・・・〕

 

 

ア:これ、キリエ―――

キ:はぁ〜〜い・・・なんでしょぉう〜〜―――・・・(どんよ〜り)

 

ア:(う゛・・・)なんだ―――まだ根に持っているのか?

キ:(そりゃ持ちますよぅ・・・こっちは主上の事を思って進言しているのに・・・

  それを、あんなこと言われるんだもの―――)

  いえ・・・別にぃ――――(ぶすぅ)

 

ア:・・・そうかい―――。

  それじゃあ、明日、件の庵へと行くから、用意をしておくように。

キ:・・・はぁ〜〜?! また・・・ですかぁ?! この前のようにガセなんじゃあ―――

 

ア:まあ―――そういってやるな。

  彼女達にも彼女達なりの事情というものもある、そのことを判ってやれない、お前じゃあないはず―――だが。

キ:(はぁ〜〜・・・そう―――そうなのよねぇ〜〜)

  判りました――― では、明朝に出発の予定でよろしいですね。

 

ア:うん―――・・・。

  ああ、そうそう・・・今回は、あの虎鬚殿もついてくるように行っておいてくれないかな。

 

キ:はい―――了か・・・はぁあ?!! あの―――お゛?! ど・・・どうしてまた―――・・・

ア:この前―――あのユミエって人にも言われただろう? 供はお前しか連れてきてない・・・って、だからだよ。

 

キ:ぅ゛う゛〜ン・・・し、しかし――― 一人増やしたからといって、何が変わるとでも・・・

ア:おや―――そうかな。

  私にしてみれば、『龍』に『虎』を従えているのだから、それで十分だと思うのだけれど。

 

キ:(はは―――・・・)そうきましたか・・・。

  (キッ――)委細承知いたしました。

  では、そのように取り計らいますので―――・・・。

 

 

〔やはり―――と、いいましょうか、先ほど主にやり込められたキリエは、相当に精神にダメージを受けていた様子。

それでも、その事を知りながらも、少しも甘やかさなかった、キリエの主である女禍様・・・少し冷たいと思いがちになるのですが、

 

この主従の関係は、7万年も前より続いているので、さほど気にすることはなかったようです。

 

そのことよりも、キリエが一番に意表を衝かれたことといえば、今度かの存在に会いに行くときは、あのヒも一緒だ・・・と、いうこと、

でも、そのことには、州軍の一隊や、余りよろしく思われていない州官連中を連れて行くよりも、

真に信頼を寄せているたった二人のほうが心強い―――と、していたからなのです。

 

 

そして――― 一夜が明けて・・・

颯爽と、一台の馬車と、その両脇を固めるべく、二頭の軍馬が・・・〕

 

 

ヒ:(ふわぁ〜・・・)しっかしよう―――こんな朝っぱら早くからたたき起こされるたぁ・・・あぁ―――ふわぁ〜〜〜あ!!

  思ってもみなかったぜ―――・・・

 

キ:仕方ないでしょ―――私がわざわざあなたの家まで伝えに行ったとき・・・・

  あなたは自分の部下を引き連れて、一晩中飲みまわってた―――と、いうんだから・・・

 

ヒ:あぁ〜〜あ・・・失敗しちまったぜ―――全くもってよう。

  こんな事なら、十軒もハシゴなんかするんじゃなかったぜ、まぁ〜だ頭ン中が くわんくわん 鳴ってやがらぁ〜〜―――・・・

 

キ:それが自業自得というものよ―――・・・

  州公様も何か一言、言ってやってください。(しれっと)

 

ア:(え゛っ―――?)う・・・うぅ〜ん・・・ま、まあまあ―――虎鬚殿も反省している事だし・・・その辺にしておいて上げなさい、キリエ。

 

ヒ:(おおっ―――?)随分と話しの分かる人じゃねぇかよ・・・

  なあ―――そうだよ・・・なあ??!

 

キ:(フフン―――♪)≪大酒飲み同士、よく気の合いますことでェぇ〜♪≫

女:・・・・・・・・・。(キリエのヤツめ・・・)

  イヤミだよなぁ〜〜―――全く・・・(はぁ・・・)

 

 

〔でも―――この脇を固める一方は、非番であった昨日、嫌がる部下を数人引き連れ、十軒もの酒屋を渡り歩いた大酒飲みが・・・

しかも、宜しく二日酔いになっていたようで、まるで頭の中で半鐘が鳴り響いているかの如くの音と、締め付けるような頭痛に悩まされていたのです。

 

そこを―――もう片方を固める州司馬のキリエが、ここぞとばかりに昨日の朝の返礼に、

アヱカの身を借りて存在しているお方に、皮肉を申したようであります。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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