≪七節;頭に来る理由≫
〔しかし―――州公が良くても、お供としてついてきている二人が、このことを知ったとしたら、一体どんなになるでしょう。〕
ヒ:ふわぁ〜〜・・・あ―――
州公殿、何してんだろうねぇ〜〜・・・かれこれ二刻半も出てきやしねぇゼ?
キ:(フフっ―――・・・)案外、四方山話に花でも咲かせているんじゃあないかしら。
ヒ:う〜ン・・・でも、それにしちゃあ、ちょっと遅すぎらぁ―――
なぁな・・・ちょックラ覗いてみようぜ?!
キ:(はぁ〜・・・)“覗く”・・・って、そんなみっともないからやめときなさいよ。
ヒ:いぃ――――じゃねぇかよ、ちょっとくらい・・・(チラ)
(うん??)――――あ・・・あれ??
キ:・・・どうしたの―――
ヒ:あそこの―――入り口付近に立って待ってるの・・・って、州公殿じゃあねぇのかい??
キ:(えっ―――?)まさか―――・・・(ちら)
(あ・・・!!)ほ―――ホントだ・・・
ヒ:おい―――それに見てみろよ・・・ここの主とやらは、昼寝をしてて、州公殿をまだ庵の中に入れてもいやしねぇゼ・・・
(くぅっ・・・)許せねぇ―――何たる無礼、何たる傲慢―――!! そっちがそのつもりなら・・・(すっ―――く・・・)
キ:(あっ・・・)ち、ちょっと待ちなさい―――? 虎鬚殿、どこへ行くというの?!!
ヒ:(キッ!!)知れた事よ!! この庵に火をつけてやらぁ!!
キ:(ブッ!!)ひ―――・・・火をつけるぅ?!!
ヒ:あぁ〜〜―――! それでも昼寝ぶっこいてられるかどうか、見てやろうじゃあねえか!!
キ:ちょ―――ちょっと待ちなさいって!! あなた・・・ナニ突然、莫迦な事を言い出したりするの!!
ヒ:どいてくれよ・・・司馬殿―――
あんたは気が長いから怒らねぇのかも知れねえが・・・オレは、自分の主人があんなにされて黙ってられるほど、気は長くはないんだぜ・・・
そのことを、あいつにも分からせてやるのよ―――!!
キ:(気が長い・・・って、私だってプチ切れしてんのに・・・)
ちょっとっ―――! これ以上騒ぎ立てると、私が許さないわよッ!!
それに―――どうして州公様のお気持ちも察して上げられないの!
ヒ:へんっ―――! オレにはわからんねぇ。
折角尋ねてきてやってるのに、入り口で待ちぼうけ喰わされて、挙句には追い返されたりしたんじゃあ、割にあわねぇじゃねぇかよ。
キ:(まだ追い返されていないッてぇ―――の!!)ン、もう―――この分からず屋ッ!!#
〔やはり・・・と、申しましょうか、この麗らかな日差しに負けがち・・・にはなっているようです。
でも、会いたがっていた人物に、ようやく会えて、話でも長引いているのか、アヱカは、いつまで経っても戻る気配すらない・・・
そこでヒが、どんな様子か・・・を探るため、覗いてみたところ―――
四方山話に花が咲いているのかと思えば、未だ自分たちの主は、庵の入り口で、侍立していたのです。
このことに業を煮やしたヒは、唐突にも『この庵に火をかける―――』と、言い出す始末。
でも、そこはキリエに引き止められたのですが、一番にヒが理解し難かったのは、
自分たちの主を、あそこまで蔑(ないがし)ろにされて、憤慨しようとしないキリエと・・・当事者であるアヱカなのです。
しかし・・・正直なところ、キリエも小噴火寸前まで来ていたようなのですが、
自分が噴火すべきときには、ヒが『火をつける』と、言い出しており、それで少しばかりは溜飲が下がったのが実情のようです。
しかも、最終的には、お互いが気がつかないほど、大声で怒鳴りあっている事に―――・・・
そのことに気がついたからなのでしょうか、まるで・・・深淵の淵にて臥する龍の如く、目が覚めた庵の主は・・・〕