≪二節;出庵≫
〔そこで・・・タケルは、どうしてこの閑静な竹林に居を移したのか、その総てをアヱカの前で話しました。
学問を役立てる事を知らない無能の連中・・・そんな者達と同列に見られたくないため―――と、
以前にもあったように、タケルの下には大小関わらず、各国の官たちが、彼を召抱えようと躍起になっていたことから、
逃れようとしたのもまた事実だったのです。
しかし―――この・・・ガク州公・アヱカのように、会えなかったから―――と、五度も庵に訪ねてくる者もいませんでした。
それに、自分の著した書を理解できる者も、数えるくらいしかいなかったのです。
だからこそ―――彼は待ちわびる事にしたのです。
例え、この竹林に身を潜めようとも、その大いなる志を理解しえて頂ける・・・真の盟主の現れんことを―――
そして―――その人物は遠からずもいた・・・
その人物は―――今、こうして自分の目の前にいるということを・・・。〕
タ:(フフフッ―――それにしても・・・
『初めのうちはごく小さかったのに、やがて他の誰よりも容易に大きくなる』
か・・・、当初あった時分よりかは、幾分か成長しているようにも見える・・・。
それに―――・・・
『機会が二度、扉を叩くと考えるな』
と、いうこともある・・・。
するとなると―――この辺が頃合か・・・・)
―――州公様のお気持ちは大変よく分かりました・・・。
大して力のない者ですが、共に国事に尽くしてみましょう。
ア:(お・・・おお―――)それでは、私に力をお貸し願えるのですね? 有り難うございます。
タ:いえ―――こちらこそ・・・。
これ、ラクシュミ―――
ラ:はぁ〜い・・・なんですか、先生。
タ:ユミエ―――いや・・・=鵺=を呼んできてくれないか。
ラ:う・・・・うん。
ア:(え・・・?)タ、タケル殿―――
タ:・・・もう、アレの正体は分かっているはずです。
ですから、あなた様の前でもそう呼ぶことにしたのです。
ユ:――――ご用でしょうか。
タ:うむ・・・。
ワシは、州公様のお誘いに乗じる事にした。
州公様は、大して才のないこの身に対し、五顧の礼を尽くし、ワシを招こうとされた・・・
いくら怠け者のワシでも立たざるわけにもいくまい。
そこで―――ワシが庵を空けて出る旨を、弾正やチカラの二人に伝えておいて欲しいのだ。
ユ:―――そのようなことでしたれば、お安いご用です。
タ:そうか・・・頼んだぞ―――
それでは参りましようか。
〔タケルは、この庵から出るに際し、言葉巧みに誘導し、州公・アヱカの本心を探ろうとしていました。
けれどもアヱカには、その肚に何かを隠している・・・と、いう風でもなく、寧ろそう疑ってしまった事が、逆に浮き彫りとなってしまったのです。
それはともかく―――自分が今、欲している“智”を召抱える事が出来たアヱカは・・・
そんなには大仰な態度には表さなかったものの、かなり嬉しい様子だったようです。
それからタケルは、この庵を空ける事を、ノブシゲとチカラの両名に伝えるよう=鵺=であるユミエに言っておいたようです。
そして自身は、州公・アヱカとともに馬車に同席をし、自分たちがまづこれから成すべき事を談じ合いながら、
一路・・・ガク州城へと戻っていったのです。〕