≪四節;打診≫
ヨ:実は―――王后様のご要請で、州公様にホウ王子様のご養育に携わって頂きたい―――と・・・
ア:えっ?? わ・・・私に?!―――ホウ王子様の養育を?!
し・・しかし・・・ナゼにまた―――
私が何も学識のない―――田舎出身である事は、王后様も周知のはず・・・
それをどうして―――
ヨ:・・・そのことにつきましては、王后様のほうでも、重大な手違いであった―――と・・・
ア:(え?!!)お・・・王后様自らそのようなことを?!
ヨ:はい―――
ア:で・・・でも―――どうして私などに、これから次世代を担う方の養育係という大任を・・・
それならばもっと相応しい方―――例えば、司徒のイク様や録尚書事のセキ様が―――・・・
ヨ:(フ・・・)やはりそのお二方の名をあげられましたか―――
ア:な、なんと―――?で・・・では―――
ヨ:はい―――・・・
王后様も先立ってはそのようにお考えだったようでしたが、お二人ともお断りを申し述べられまするには、
自分たちよりも適任者がいるではないか―――と・・・その時申されておりましたようで。
タ:なるほど・・・つまりあなたは、元の主人達と、今の主人の、その意向を受けて今ここにいる・・・と。
ヨ:―――いかにも。
さすがに稀代の能臣の着眼点は違うと見えます。
そう・・・私も、以前尚書台にて勤めていた折に、国を憂いているイク様やセキ様に感化された人間の一人。
そして此度は、今の主であるリジュ様の意向と、あのお二人の口添えも受けて、こちらに参った次第なのです。
ア:そういうことだったのか―――
こういうことだが、どうしたらいいだろう、タケル。
タ:何も迷う必要はないでしょう。
幼君のお母上と、忠臣のお二人の推挙までも添えられているのです。
断る道理などない・・・。
ですから、今のあなた様のお気持ち―――そのままになされてみてはいかがなのです。
ア:私の―――気持ち・・・
正直に述べると、ホウ君(ぎみ)の養育を一手に任せて貰える・・・こんな名誉な事はない―――
と、する反面、私には国より任せられているガク州の事が気がかりでならない、
それに―――・・・私のこの身は、一つしかない・・・どちらかをなするには、一つを切り棄てなければ・・・ならない―――
〔その重大な案件こそ、ホウ王子の・・・彼がフ国王になるための養育なのでした。
しかし、それは大変栄誉なことであり、自分の小さな双肩に耐えられるだろうか・・・と、するアヱカなのですが、
実際、自分より適任であるとされた二人―――イクとセキからも推挙の事実があった模様。
そして、その使者の正体も次第に明らかに・・・
そう―――元々はイクやセキのいた尚書台の下級の役人として・・・
それから当時の尚書令であったイクからの意向を受け、国王や王后の世話をおおせつかり・・・
そして今また―――彼らからの要請を受け、アヱカの説得に当たっていたのです。
そのことを理解したアヱカは、早速タケルからの助言を受けようとすれば、
どうやら彼は、アヱカの想いなど先刻承知だったらしく、今のご自分の胸中そのままに―――と、だけしたのです。
でも・・・アヱカには一つ気がかりな事が―――
そう、ホウ王子の養育を引き受けてしまったなら、それ以降のガク州はどうなるのか・・・と、いうこと。
ようやくここにきて、軌道に乗り始めた州政を、またどこの誰とも分からぬ者に委ね、台無しにされては―――
と、言う気持ちもあったのです。
ですが―――・・・〕
タ:その事でしたらば、州のほうはワシにお任せ頂きたい。
ア:た―――タケル??
タ:それに・・・何も州政というものは、そう難しくはありません。
寧ろ簡単なものでよいのです。
しかも―――どうも前線の空気がきな臭く感じられる・・・
ア:えっ―――?!! ぜ、前線?!
また・・・カ・ルマからの侵攻があるとでも?!!
タ:まあ―――それはあくまでの可能性・・・ではございますが、
これは必ず近い将来に起こりうる・・・と、申しても過言ではないでしょう。
〔なんとも、このときタケルからは意外なる発言が・・・
そう―――州公のアヱカの代理として、ガク州の政治を引き継ぐと言ったのです。
でも、それは余りにも無謀な事、先日まで赤の他人であるはずの彼に、自分が理想としている治世が果たして行えるだろうか・・・
と、していたのですが、それは全くの杞憂に過ぎないことだったのです。
なぜならば、彼の理想もまた―――アヱカの理想としているそれに限りなく近かったのですから・・・。
それに―――近々、また国境付近が騒がしくなるであろうことまでをも、察知していたのです。〕