≪四節;グランデル戦役=伏勢=≫

 

ワアァ――――・・・・

 

〔『ウィロウ』から・・・攻めあがるべき『グランデル』まで、一つの林を抜けなければなりませんでした。

 

でも、確かに―――攻めに行ったときには、動く者の気配などなかったというのに・・・・

それが―――なぜか、今、カ・ルマ軍を取り囲む木々の総てが、まるで敵兵の・・・ガク州軍であるかのように思えてしまったのです。〕

 

 

敵:ぬ―――ぬおっ??!

敵:て―――敵・・・か??

 

 

〔一旦―――“そう”だと思い込んでしまったら、中々“そう”ではないことを判らせるのに、時間がかかってしまう・・・

右に―――左に―――前に―――後ろに――――・・・それは、味方が“敵”であるように覚えて――――・・・

つまりは、混乱をきたしてしまった・・・と、いうこと。〕

 

―――すると―――

 

 

ピュィイイ〜〜―――――――――――――――ッ!!

 

敵:な――――何の音だ??!

 

ワアアア〜〜―――――ッ!!

 

 

〔まるで・・・そうなってしまっている事を見計らったかのような、甲高い『禽』の啼き声―――・・・

そして、それが合図であるかのように、周囲の木立から、実体化するガク州兵―――・・・

 

いえ、それこそは―――〕

 

 

カ:それっ―――! 今です!!

コ:我らが眼前にあるのは、敵兵―――のみ!!

 

 

〔それは・・・結論だけを先にいうのならば、ガク州軍ではありませんでした。

 

けれど―――突如として現れた二つもの軍団は、自分たちの目の前にいるのは、敵軍であるカ・ルマ兵であるとして、一気に畳み掛けたのです。

 

では―――突如としてガク州の地に現れ、カ・ルマ軍を攻撃している二つもの軍団とは、一体どこの・・・??

 

 

それは―――・・・以前、州公会議に出席をしていた・・・

 

ジン州公:カ=カク=ハミルトン

ギ州公:コウ=ジョ=タルタロス

 

そう・・・ガク州に隣接している、フ国内の二つの州は、ガク州襲撃の報をいち早く知り、ここに駆けつけてきた―――と、いうのです。

でも、一つ不思議なのは、互いの州は、どんなに急がせても、一日余りをかけてようやく州境に達するというのに、

それが今回は、ガク州城より数百里と離れているというこの戦場に、その一報が伝えられてから一刻と経たないうちに―――・・・??

 

しかし・・・やはりそこには、それなりの理由があったのです。

よく見ると、ジン州・ギ州―――両州兵の鎧の一部には、 ≫迅≪ と書かれた 呪符 が・・・・

そう―――それこそは・・・〕

 

 

カ:(フ―――・・・しかし、ユミエ某から預かったコレに、まさかこんな効果があるとは・・・・)

コ:(我がギ州城から瞬時に戦場とは・・・未だに信じられないが、現実のようだ―――)

 

 

〔今――――両州公が感じ入っていたように、両軍の兵馬には、その“脚”を迅速に動かせられるものが取り付けられてあり、

また―――周囲(まわ)りの樹々には、ある種の結界が張られていたのです。

 

そう―――・・・ジン州軍・ギ州軍の両方とも、その“呪符”と“結界”の相乗効果によって、この戦場―――グランデルに現れたのです・・・

では、誰がこんなことをしたのでしょうか・・・

 

それは―――=白雉=の術・・・『八卦』。

彼女が拵えた数万もの ≫迅≪ の呪符を、=鵺=と=梟=の二人が、それぞれジンとギ州へと届け、

前もって両州城の城門に張っていた結界に誘わせ―――そして、一瞬の元に戦場・グランデルへ・・・

コレが、今回なしえたトリックの全容だったのです。

 

 

しかし――― 一方のカ・ルマ軍は、いきなり大軍が現れたことにより、混乱による混乱を招いてしまい、

中には、あわや同士討ちをするものまで出る始末だったのです・・・〕

 

―――が―――

 

 

ワ:えぇえ〜〜―――い! 邪魔だ!どけどけぇぇ〜〜い!!

 

                   キイィイイ――――――ン

 

カ:(ムゥっ―――?!)な・・・なんなのです? この――――音・・・!!

コ:み―――耳が・・・鼓膜が引っ張られそうでござる!!

 

 

〔魔将・ワグナスの持つ武器・・・エストックの『スクリーマー』なるモノは、その名の通り甲高い“叫び”をあげ、

自分に群がってくる敵兵を避けるようにして、自分たちの砦・・・ウィロウへと撤退したのでした。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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