≪二節;古(いにし)えの皇≫
〔そして、その後数分くらい立って、奥の方から現れたのは・・・・
まさに、あの姫君にも、勝るとも劣らない、華やかなドレスをその身に纏った者が、そこにはいたのです。〕
婀:・・・・済まぬ、いらぬ手間を取らせてしまったな。
か、髪を結い直したついでに・・・着替えもしてきた・・・。
じ、じゃが、勘違いなさるなよ? 妾は・・・ほ、本来このようなモノは、着たくはなかったのじゃが・・・
あ、あいにくと、これしか着れそうなのはなかったのでな・・・
ス:・・・・ま、そういうコトにしときやしょう。
婀:うむ、とりあえずは、そうじゃな・・・。
ところで、話とは何かの?
ス:うん、その前に・・・あんた、「女禍」って者の事は・・・?
婀:うん?!「女禍」?? 「女禍」とは・・・あの古代の皇の中でも、仁政を敷き、諸国の王侯や民は云うに及ばず、人に非(あら)ず者からも、支持を集めたという?
ス:然様、それだけ知っていれば、これからの事、話し易い。
と、云うのはだね・・・その女禍っていう方は、その仁政に於いてだけではなく、とても情け深い・・・慈しみのあるお方だったそうだよ・・・。
だからねぇ・・・そのお方が崩御された折には、人民や精霊、果てまたは草木までもが嘆き哀しみ、皆この世の終わりをも予感させたそうだよ・・・。
婀:そのような事は・・・・何も妾でなくとも、知っておる。
その女禍といわれる方、死してなお今、神として崇め奉られておるではないか・・・。
ス:ああ、その通り。
だが、この話そこで終わってしまえば単なる昔話、何もワシが語るまでもなく、そこら辺のガキでも知っている事さね。
だがね、ワシが云いたいのは、もうちょい前の事・・・・この女禍と言われる方、崩御される前に、こう・・・云われたそうだよ・・・。
「我レ死シタ後 尚 人心麻ノヨウニ荒ム時アラバ 我ガ魂 六道ヨリ復活セシメン・・・」・・・とね。
婀:ま・・・っ!まさか・・・・それは・・・??!
ス:いかにも、知ってのように、「女禍の魂」といわれる代物だよ。
婀:で・・・っ、では・・・ナゼそれをお主が・・・
ス:・・・・ワシはね、公主さん。
その・・・女禍の魂を持った人間と、一緒に暮らしたことがあったんだよ、幼い頃にねぇ・・・。
婀:な・・・っ、なんじゃと??そ・・・そのような事・・・・本当に??
ス:ああ、本人が言うんだ、間違いはねぇ・・・。
ワシ自身アレを見るまでは、これもまた伝承の一つよ・・・と多寡(たか)をくくっていたが、
それが本当だと知った時にゃあ正直びっくらこいたねぇ・・・今のあんたの比じゃあなかったよ。
婀:だ・・・誰なのじゃ・・・それは・・・
ス:ワシの姉・・・とは言っても、血はつながってない・・・。
まぁ、義理の姉といったところかね、その・・・・「ジイルガ」というお人だよ。
だが・・・今はもうこの世にはいない・・・あのお人は、自分の命と引き換えに・・・このワシに第二の命を与えて下さった・・・。
今、ワシがこうして生き永らえているのも、女禍の魂を持った、ジイルガ姉ちゃんのお蔭なのさ・・・。
婀:成る程・・・・そうか・・・・お主、一度死に憂き目に・・・。
それで、そなたの身代わりになって、その方が身罷(みまか)られた・・・と?
ス:うん・・・っ、ワシはあの時ほど、声をあげて哭いた事はなかったよ・・・。
自分でも、こんな哀しみが内にあるのかと思うくらいにね・・・。
婀:(成る程・・・・。)
・・・・・ん?し、しばし待たれよ?!お主が女禍の魂を持つ者と、一緒に暮らしていた・・・というのは分かったが・・・・
それでは・・・
ス:そう、これもここでお終いにしちゃあ、単なるワシの回顧録だ。
ワシが一番に言いたいのはだね・・・今現在、この世に、その「女禍の魂」を持つ者がいる・・・という事だよ。
婀:な・・・なんですと??!そ、それは真か!!?
ス:嘘か・・・本当か・・・それはまだ確証には至っていない・・・・が、ここのところ奇妙な事が起きているのも事実だ。
ほれ、あんたがしているそのロザリオも、その一つだよ。
婀:これが?!いや、しかし、これはテラ国の・・・・・
(!!) ま・・・まさか!
ス:そう・・・・ワシの勘が鈍ってなけりゃあ、十中八・九、今の女禍の魂を持っているお人は、カ・ルマの連中が血眼になって探している・・・・
その―――手配書の女性だよ。
婀:なんと・・・・。(それであやつら、あのように・・・)
フ・・・っ、それにしても、なぜにお主、斯様な事を、妾に・・・?
ス:んん?ワケを云えってかい?そりゃあんた・・・アレだよ。
個人で、そうかくまえ切れるものじゃあなし、だが組織だと、どうなるかね?
婀:しかし、今これを聞いた妾が・・・・心変わりを起こし、己の慾のために・・・彼奴等に売るかもしれんぞ?
ス:なぁに、そん時ゃあそん時さね、運がなかったとあきらめるさ。
だがね、こう見えてもワシには人を鑑る目がある。
少なくとも、公主さん・・・あんたは、自分の利だけに走らん人だ・・・と、そう思っているよ。
婀:そうか・・・・あい分かった。
で・・・・その方・・・・今どこに・・・・?
ス:さぁ・・・・て、ね。
案外そこら辺にでもいるんじゃあないの?
それじゃあね―――
〔そう・・・かの盗賊が、女頭領に言い置いた事。
それは、当代きっての名君と讃えられた「女禍」の「魂」で、あり。
今まさにそれを有している者が、かの亡国の姫君だ・・・と、云うのです。
しかも、ナゼ彼が姫君にそうだと断定したのかと云うと・・・
そこは彼も姫からの口伝のみ―――しかも、姫も自分の護衛よりあまり詳しいことは聞いてはいない・・・
けれど、なんと云えばいいのだろうか―――
彼女と一緒にいるとき、なぜか心休まる・・・温かくなる感じがしてくる―――
荒んでしまったこのココロ・・・隙間風を埋めてくれるとでも云うような、なんとも云えない感じ―――
それは・・・もう・・・今では忘れてしまった、母の温もりか―――
でも、それだけではない・・・と、盗賊は感じるのです。
それと云うのも―――ここ最近で対等をしてきた、「北方の雄」とでも云うべき国家・・・カルマ―――
その国が、まるで国家の威信をかけるとでも云うように、今では滅んでしまった国の生き残りを探している・・・
そう云えば「カルマ」―――・・・
遙かな過去にも、同じような名称を持った国家がありはしなかったか・・・?
それも・・・この大陸の伝承に残っている、「古(いにし)えの皇」と、同じ時代に―――・・・
つまりは、少々荒っぽいながらも、それが盗賊が辿りついた推論だったのです。
でも―――それをまだ詳しく話すわけにはいかない・・・
信用したわけではない―――今は試すのみ・・・
今は、その存在がいることを仄めかし、「ギルド」に確保してもらえればいい―――
そこはまさしく、盗賊が出た賭けにも等しい行為でした。
そして、その盗賊が帰った後で・・・・〕
婀:ふふ・・・・。 男の子(おのこ)とは、まさにあああるべきものよ・・・この妾の痴態をモノともせず、己の矜持のままに生きる・・・
夫君(ふくん)を取るなら、あのような方こそ望ましい・・・・。
ああ、君よ・・・・何故にそなたは、いま少しばかり早う、妾の前に現れて下さらなんだのか・・・・口惜しい事よ・・・。
―――これッ!誰かある!!