≪五節;器に戻らぬ、覆った水≫

 

 

〔その一方で、あの盗賊は何をしていたのかというと・・・・

 

―――左馬亭にて・・・〕

 

 

ス:はあぁ??ナニ?ギルドの連中に連れてかれただってェ??!

主:ああ、そうだよ。 3・4人が、ドカドカと上がりこみやがってさ。

 

ス:ふぅぅむ・・・

  (成る程、それがあんたの判断・・・ってなワケですかい・・・。

  ま、それはいいとしても、よくここだ・・・ってのが分かったねぇ。

  もう少しばかし、かかると思ってたが・・・・。)

 

 

主:なぁ・・・ちょいと?スーさん。

ス:え?あ・・・あぁ、イヤすまなかったね。

  こいつは迷惑料だ、とっときなよ。

 

主:・・・・そいつはいいんだけどさぁ、なんかヤバイヤマに、首突っ込んでんじゃないの??

ス:(ヤバイ・・・ねぇ・・・)ま・・・・そうだとしても、こっちまではきやしないよ、ンじゃあね・・・。

 

 

〔姫君の拉致現場を、つぶさに見ていた宿屋の主人により、その事を聞き出し、事の次第が自分の思惑通りに行っていることに、内心笑みを隠せない盗賊。

しかし、彼の腑に落ちない点は、自分が女頭領に例の事を話しておいてより、そんなに時間が経たないでいるのに、ギルドが状況に踏み切った事にあるのです。

つまり彼は、もうしばらく時間がかかる・・・と踏んでいたようなのですが・・・・

 

この時間の穴を埋める鍵はどこにあるのか・・・この盗賊が考えながら歩いているところに、当事者の一人である、あの鑑定士に出くわしたのです。〕

 

 

ナ:よう!ア〜ンタ、元気してるかい?!

ス:いよう、ナオミ。

  どうしたい、えらく機嫌がよさそうじゃあないか。

 

ナ:いャあ〜ナニね? あ、それよりさ、これ見てくれよ。

ス:んん?ナニナニ・・・・認可状じゃあねぇか。

  どうしたんだ?こんなもん・・・・

 

ナ:なんとさぁ・・・・あたし、ここの専属の鑑定士になれたんだよ〜!

ス:ほぉ〜そいつはおめでとう。

  んで?どんな手柄を立てたんだい。

 

ナ:それがさぁ〜〜たった二つの宿屋、教えただけで、向こうさん取引に応じてくれたんだよ〜〜〜。

ス:(うん???) ・・・・・どこと・・・・どこだい・・・。

 

 

〔この鑑定士と盗賊は、旧(ふる)くからの馴染み・・・

それに、普段からぶっきらぼうな盗賊に対し、どちらかと言えば鑑定士のほうが彼の生活面でのやり繰りをしてあげていたのです。

 

だからこそ―――悪人共の集まる組織とは云えど、そこの長から「専属」の認可が下りたことは、生活面での大きな後ろ盾をえた・・・

日頃から「自分がしっかりしなきゃ」と思っていた鑑定士にとって、これほど大きなことはなかったことでしょう。

 

けれど・・・このとき鑑定士は、よほど浮かれていたのでしょう、

この盗賊に、云わなくてもいい―――云ってはならない事―――を、つい喋ってしまったのです。〕

 

 

ナ:そりゃ、あれだよ・・・・あんたがよく利用していた・・・・「J(みぎわ)亭」に、「左馬(ひだりうま)亭」・・・。

ス:な・・・なんだってぇ??! そうすると、あれか・・・お前が喋ったッてぇのか??!

  ―――な、なんて事を・・・

 

ナ:えぇ?ど・・・どうしたってぇんだよ・・・そ、そんなに血相変えちまってさ・・・。

ス:く・・・っ!これじゃあ―――ワシがみすみすあの人の居場所を、話しちまったって事も同然だ・・・。

  (それにしても・・・・考えたもんだ・・・初めは細かな一本の糸を、手繰り寄せることにより、こいつとワシが、同郷の人間だということを知りやがった・・・)

  

  あそこを・・・利用したのは間違いだったか・・・・。

 

ナ:なあ、そんな事よりもさぁ。 このあたしの、専属就任を祝して、今夜・・・一緒に食事しないかい?

ス:・・・・気の毒だが・・・そいつは受けてやれねぇ・・・。

 

ナ:え・・・?な、なんで・・・だよ。

ス:自分がやってしまったことの、過ちの重大さに気付かないお人なんて・・・ワシはゴメンだね。

 

ナ:ええ??なんだって? 過ち・・・?事の・・・重大性?? な、なんだい・・・・そりゃあ・・・。

ス:あばよ、達者でやんな・・・。

 

ナ:そ、そんな!!ち、ちょいと待っておくれよ! なんなんだよ、一体・・・・話しておくれよ!!

 

 

〔未だに、自分のしてしまった過失、その重要性に気付かないこの鑑定士に対し、幼馴染の盗賊は、そのわけを・・・・決定的な事を言い放ったのです。〕

 

 

ス:お前ェはな・・・現世に甦らんとした、現人神(あらひとがみ)を売っちまったんだよ!!

 

ナ:えぇっ??!あ・・・現人神・・・って、ま、まさか、―――じ、女禍の―――・・・?

  あ、あんたの姉さんが有していた・・・って言う・・・あの??!

 

  そ、そんな・・・あ、あたし、そんなつもりは・・・

 

ス:そんなつもりはなくてもなあ、現にこうなっちまってるんだよ! 全く・・・何から何まで・・・!!

 

ナ:ああっ!ゴ、ゴメンよ・・・こ、この通り謝るからさ、許しておくれよ・・・。

 全く悪気はなかったんだ・・・だから、だからあたしを一人にしないでおくれよ・・・・!

  

  あたしは・・・ホントはこんな認可状なんかどうでもよかったんだ・・・ただ、あんたと一緒に・・・

  あんたを追いかけて―――「ラージャ」から、こんなとこまで来たの、分かってるんだろ・・・――タケル――・・・。

 

ス:(!)余計な事をベラベラ喋んじゃあねぇよ! 頭ンくるねぇ。

 

 

〔この男の怒りを激しく買い、あわてて弁明をするも、出る言葉毎に、彼の怒りの火に油を注いでしまう女。

 

しかし、その言葉には、彼女の本心が紛れもなくあったのです。

そして、男も、その本心を知っているが故に、それ以上の追求はしなかったのです。

 

ですが、今はそれどころではないのです。〕

 

 

ス:急がねぇと・・・手遅れになっちまう!!

 

 

ナ:あぁ―――タケル・・・タケル! あ・・・あたし・・何やってんだ・・・なんて、取り返しのつかないことを・・・・・してしまったんだ!!

 

 

〔―――「覆水盆ニ帰ラズ」―――その言葉どおり、取り返しのつかない事をしてしまった女は、

ただ、ただ―――そこにうずくまるしかなかったといいます。

 

己のしてしまった、破廉恥な行為に、ただ―――ただ―――そこにうずくまり、泣きはらすしかなかったのです・・・・・。〕

 

 

 

 

 

 

To be continued・・・・

 

 

 


あと