<第四章;囚われし者・・・>
≪第一節;心の闇≫
〔この盗賊が、女首領の部屋に来るほんの少し前、カ・ルマの騎士により、無理難題とも言える事を押し付けられ、
しかも、ギルドの接収までも、その視野に置かなければいけなかった中、この時の女頭領は、彼の者達による、無礼なまでの態度に怒りを覚え、
手当たり次第、アルコールというアルコールを、浴びるように飲んでいたといいます。
そんなところへ、格好の好餌の者が入ると、どうなってしまうのか、それは推して知るべしであったでしょう。
そんな虎穴ともいえるところへ、いまボロをその身に纏った、みすぼらしい男が単身で入っていったのです。〕
婀:・・・・なんじゃぁ・・・・ぎざまぁ゛ぁ・・・・
ス:(おおっと・・・こいつぁ、相当荒れてなさるね・・・)
イヤぁ、ナニ・・・ワシはステラバスターという、ケチな男でしてね?
とりわけ旨い話を、あんたに持ってきたんだがねぇ・・・どんなもんだろ?
婀:帰れ・・・・帰れ帰れ帰れ!
妾は当分、人には会いとうない!!どいつも・・・どいつもこいつも、妾の事を小バカにしくさりおって・・・。
お主も、お主もそうなのであろうが・・・?!今の妾を見て、そう思うておるのであろう?!
女だてらに、ギルドの頭(かしら)に収まるから・・・こんな目に遭うものと・・・・そう思うておるのであろうが??!!
ス:・・・・・ああ、そうさね。
だがね、今のあんたの、その体(てい)たらく、それをワザワザ見に来た・・・ってぇほど、ワシもヒマじゃあねぇのよ。
婀:ならば・・・・何の用じゃ・・・
早々に云い・・・・早々に立ち去れぇい!!
ス:・・・・・それより、あんた―――
婀:うん・・・?
ス:言葉に、訛りがありなさるね・・・。
婀:・・・・何が・・・言いたい・・・。
ス:少なくとも・・・この地域周辺じゃあない。
もっと東南・・・そう・・・「ヴェルノア」辺り、と云った方が妥当かねぇ・・・。
婀:・・・・・それで・・・?
ス:そこの王族に・・・確か、一人娘がいたっけねぇ・・・確か・・・・名を・・・―――おおっと。
婀:・・・・・フンッ。
ぷふぁっ! 云いたい事は・・・・それだけか・・・・
ス:いいや、まだ続くよ。
その一人娘は公主となり、何不自由なく暮らしてきた。
だが・・・ある日を境に、行方をくらまし・・・・
婀:それが今は、こんな処で大酒を喰ろうておるとでも云いたいのか・・・・。
ナニが・・・ナニが、キサマのような平民出に、妾の心の闇が分かろうか!!
妾の着たい、流行りモノも着れず、まるで着せ替え人形のように、決められたようなものしか着せられず・・・
女中共は、傅(かしず)きながらも、その嫉妬を隠し陰口を囁きおる・・・
そして・・・妾に近付く男共は、ひとえに妾の躰慾しさと・・・地位名誉を得んがため、妾に言い寄る者ばかり・・・・
その・・・その、暮らしに妾は疲れた・・・飽いで、飽いで、飽ぎくさったのじゃ!!
うぅ・・・ぅぅぅっ・・・・うぐっ!・・・ぅぅ・・・・。
ス:(成る程ねぇ〜・・・王室といえど、全て何から何まで一緒・・・って言うわけではないらしいねぇ・・・この二人がいい例だ。)
婀:どうじゃ・・・お主も・・・・お主も、妾の軆目当てに、ここに来たのじゃろう?
―――どうじゃ・・・・中々のものであろうが・・・?
これを見て・・・妾の胸を見て、下心を見せぬ者などおらなかったのじゃぞ?!
今の・・・今の妾なら、何をしても構わぬ・・・・お主の意のままの人形ぞ?
ス:・・・・・醜い・・・。
婀:えっ・・・?!
ス:醜いよ・・・あんた・・・。
いま酔ってるからいいようなものを・・・素面(しらふ)の時にそんな事云えるかね?
婀:う・・・っ、うぅ・・・・・・・・・・。
ス:あんたも、元は位の高かったお人だ・・・喋り方から、立ち居振る舞いを見てりゃすぐ分かるよ。
婀:・・・・・ナゼ・・・
ス:ぅうん?
婀:ナゼ、お主は妾の心の闇を見抜いた・・・。
ス:冗談言っちゃあいけないねぇ、あんたの心の闇は、あんた自身が吐いた・・・
婀:フッ、そちらこそ冗談は大概にされよ。
・・・ふぅ、しばし待て・・・髪が乱れた、結いなおしてくる・・・
〔思っていた以上に荒れ、酒に呑まれる象(かたち)で酒を煽っているギルドの頭領・・・
それに対し、盗賊の対応は冷ややかなものでした。
けれどここで彼は、彼女の意外な過去を知ることとなるのです。
確かに今までは―――違う地域に住んでいたために、互いの容姿は知るはずもない・・・
けれども、「有名」であることの不利な点の一つに、「噂」や「風聞」などで広まる・・・
だから盗賊は、ある地域にある“列強”の一つ―――「ヴェルノア」と云う国に纏(まつ)わる、ある「噂」をそこで聞かせたのです。
それが・・・「ヴェルノアなる国には、一人の美しき娘ありき・・・」
けれどその娘は―――なにを思ったのか、今から数年前に国を出奔し、早(はや)、地位も名誉も棄て・・・いずこかで亡くなったともされていたのです。
それが―――こんなところにいたとは・・・??
とは云え、それは「噂」と言う不確かなもの―――故に、真実は本人しか知らないわけでありますが・・・
なんと女首領、この盗賊に見事なまでにその出身や身元を暴かれ・・・
そのためか、半ば自棄(やけ)を起こしたように上半身裸になるも、その男に窘(たしな)められたのです。
そして、何を思ったのか、髪の乱れを気にし、奥の部屋に引っ込んだ様子です。〕