<第四十章;新たなる展開>
≪一節;勝利の代償≫
〔折りからの―――カ・ルマ軍の猛攻を、またも防ぎきったガク州軍―――と、ジン州・ギ州の両州連合軍・・・
当然このことで、士気が上がるのか―――と、思いきや、その一角のガク州軍では、
何かに憤っていたヒと、思いのほか落胆している州司馬のキリエの姿があったのです。〕
ヒ:――――・・・・。
キ:――――・・・・。
兵:あ・・・あのぉ〜〜―――・・・
兵:おいっ―――!ヤメとけって・・・・!!
兵:あ―――あぁ・・・
〔開戦当初は、意気投合していた二人―――・・・ですが、その戦役が終わってみれば、
彼らはそっぽを向き合う関係になってしまっていた・・・
だからガク州兵たちは、まるで腫れ物に触るように接してしまったのです。
すると―――・・・〕
ヒ:おいっ―――てめぇら! 何そこでごちゃごちゃやってやがんでぇ!!
兵:(ひぃ・・・)い―――いえ・・・あの―――その―――
兵:(し・・・司馬殿ぉ〜〜)って、あれぇ―――?
キ:――――・・・。
〔いつものがなり立てる声に、それに合わせてのこの機嫌の悪さに、ビビリ縮こまってしまうガク州兵たち。
ここで普段ならば、州司馬たるキリエが諫めてくれるのですが・・・
どうしたことか、彼女は元気がなく項垂(うなだ)れたまま―――・・・
そのことに、州兵たちは疑問がわいてくるのです。〕
兵:あ・・・あの〜〜―――将軍、司馬殿が元気がないようですが・・・
なにかあったのですか―――?
ヒ:・・・・オレが知るかよ、そんなもん――――(フンっ―――)
兵:(えっ・・・)し、将軍―――
ヒ:るっせぇよ―――!#
今・・・オレぁ虫の居所が悪いんだ・・・だから―――
オレの側によるんじゃねぇぞぅ・・・
兵:(ひ・・・ひぇぇ〜〜)わっ――――判っかりましたァァ〜〜〜!
兵:そ、それでわぁ〜〜―――!!
〔日頃元気な司馬が、哀しみに打ちひしがれるように項垂れている―――
そのことに州兵たちは、今まで一緒にいたヒに、どうしてそのようになったか―――を、尋ねようとしたところ、
まるで喰って掛からんばかりの勢いで・・・しかも、そんなことに応答(こた)えなかったばかりか、
彼らを無下にも追い払ってしまったのです。
ですが―――ここで気付いた方がどれほどいたでしょうか・・・
そう・・・彼ら二人が最終的に交わした最後の言葉・・・・
『お願いだから、このことは誰にも云わないで欲しい・・・』
この約束を、ヒは守ったというのです・・・。
でも―――それは本当にそうだったのでしょうか・・・
いえ、実は・・・・ヒには、彼なりの疑問があったのです。
それは―――キリエが魔物の類だ・・・と、いうならば、彼女のことを知っており、
ここガク州の州司馬に推挙したという、州公・アヱカはどうなのだろうか・・・と、いうこと―――
“そう”―――だったというのならば、州公自身も、あるいは“そう”であるのか・・・
“そう”―――でなくても、キリエの正体を知っておきながら、共謀して自分たちを騙そうとしていた・・・?
いや―――でも・・・しかし・・・・
つまるところ、ヒの疑いは、現在 大傅 まで務め上げているという、ガク州公・アヱカまでも巻き込んでしまうという事であり、
でも・・・あんな純粋な女性が、あたら―――・・・と、疑いたくもなかったのです。〕